WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

タグ:97式戦闘機

木村昇技術中佐メモより

九七式戦闘機 260号(Airframe No.260)
全備重量(gross weight)  1510kg
試験日(test date)  昭和13年3月1日(1/Mar/1938)

高度    最高速度
(Alt.)   (Max. speed)
      0m   427km/h
1000m   437km/h
2000m   447km/h
3000m   458km/h
4000m   459km/h
5000m   455km/h
6000m   447km/h

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はじめに
 戦闘機の性能を比較する際に、よく注目されるのが最高速度や上昇力です。しかし、比較の際に注意しなければならないのが高度です。航空機のエンジンは高度によって出せる馬力が変わり、空気密度も変わるので、航空機はその高度によって出せる最大速度が変わります。また、装備したエンジンのおかげで低空では上昇力が高くとも上空に上がるにつれて性能が落ちる航空機があれば、当然逆もまた然りです。さらに、たとえ同じエンジンを搭載した航空機でも形状が違えば性能に差が出てきます。
 今回は陸軍の主要戦闘機である九七式戦闘機、一式戦闘機二型、二式戦闘機二型、三式戦闘機一型、四式戦闘機一型の試作機の審査時の実測値と思われる速度と上昇力のデータが集まったのでグラフにしてみました。

速度の比較
陸軍機速度比較
 まずは速度からです。縦軸が高度で横軸が速度です。ちなみに一式戦「隼」や二式戦「鍾馗」、四式戦「疾風」のグラフに二つピークがあるのは搭載エンジンに2速過給機が備わっているからです。低速ギアで最高速が出せる高度と高速ギアで最高速が出せる高度の二つがあるのです。97式戦は1速過給機なので山が一つだけしかありません。ちなみに5000m以上のデータはありませんでした。三式戦「飛燕」は無段変速過給機を使用していますから、山は一つですがカーブが非常に緩やかになっていることが分かります。「飛燕」のみ海面高度のデータもありました。
さて、グラフを詳しく見ていきましょう。この中で一番速い機体はもちろん「疾風」なのですが、5000m近辺では「鍾馗」のほうが速いことが分かります。「鍾馗」の2速過給機のピークが丁度「疾風」の1速と2速の谷間に来ています。実はこの「疾風」のエンジンは「誉21型」の陸軍版である「ハ45-21」なのですが、海軍と同様に不具合のため運転制限が課されています。グラフ内の性能も運転制限下で記録されたものですから決して本調子ではありませんが、それでも「鍾馗」に負けている高度があるのはおもしろいですね。
ところで陸軍には「軽戦闘機」と「重戦闘機」という考え方があります。はっきりとした定義があるわけではないようですが、一般に高速・重武装なのが重戦闘機、軽量・軽武装なのが軽戦闘機のようです。97式戦や「隼」は軽戦、「鍾馗」や「疾風」は重戦、「飛燕」はその中間の「中戦」とされることが多いのですが、グラフを見ていると「軽戦」と「重戦」の境界がなんとなく見えるような気がします。

上昇力の比較
陸軍機上昇力比較
 上昇力の比較です。例によって97式戦は5000mまでのデータしかありません。このグラフですが縦軸が高度を、横軸が時間を表していますので、角度が急なほど上昇性能が良いことになります。
さて、グラフを見ていてずば抜けているのは「鍾馗」です。5000m付近までのグラフの角度が抜きんでています。97式戦も3000m付近まで食らいついていますが、それ以上の高さではエンジンの性能が急激に落ちていくため角度が緩やかになっていきます。
一方で、「疾風」の上昇性能はこの中で最低です。あくまで「計測したこの個体は」この性能であって、もう少し良い数値の別のデータもあるのですが、それでも他の機種と比べて別段優れているわけではないのが悲しいところです。エンジンの運転制限がなければもっと良い性能が期待できるはずです。
ちなみに、5000m以上の話になると、性能不明の97式戦を除いて4機種とも似たり寄ったりなことが分かります。強いて言えば「隼」が7000m以上でも上昇率をキープ出来ているでしょうか。結局、高々度を飛行するB29を素早く迎撃できるような上昇性能を持ったインターセプターは日本には現れませんでした。

まとめ
 今日は陸軍主要戦闘機の速度と上昇力を比較しました。なぜ海軍じゃないのかと聞かれればそれは、海軍機のデータが全然揃わないからです。意外とマイナー機体は資料があったりするのですが、主要機はさっぱりなのです。一方で陸軍機は操縦参考書等に各高度別の性能表が載っていることが多く、データが収集しやすいのです。
ただし注意しなければならないのが、これはあくまで試作機の一機が出したデータに過ぎないということです。例えば「飛燕」などは度重なる改修でどんどん重量が増加していっているので、今回使用したデータのような速度や上昇力は実戦では望めないでしょう。一方で「隼」については改修によって翼端が短縮されて空気抵抗が減ったり排気管が推力式になったりと今回のデータ以上の性能が見込めます。あくまで今回はおおまかな傾向を知るための試みと捉えて頂ければ幸いです。


資料出所(当ブログの以前のエントリーを参照してください)
・97式戦闘機…陸軍航空本部『九七式戦闘機審査成績ノ概要』昭和12年12月
        (アジア歴史資料センター)
・一式戦闘機二型…飛行第59戦隊整備関係資料『キ43飛行性能表』(防衛研究所蔵)
       および『キ43酸素噴射飛行試験(第二次)』昭和19年12月30日
       (アジア歴史資料センター)
・二式戦闘機二型…陸軍航空総監部『二式戦闘機(二型)操縦法』昭和18年6月
       (国立国会図書館デジタルコレクション)
・三式戦闘機一型…陸軍航空総監部『「キ六十一」操縦法』昭和18年6月(防衛研究所蔵)
       または『KI61(TYPE 3F TONY) PILOTING PROCEDURE』
       (上記操縦法の米軍英訳版。マイクロフィルムにて国立国会図書館蔵)
・四式戦闘機一型…雑誌『丸』2018年2月号別冊付録『「紫電改」&「疾風」』内
       「キ八四操縦マニュアル」より
       ※一部誤植と思われる数値があったのでグラフでは修正しています。


データ①:1937年の3社競争試作審査時の性能
Data 1 : Competition Trial for new army fighter among 3 companies in 1937)

高度    最高速度      上昇力
(Alt.)   (Max. speed)  (Clim. speed)
      0m   420km/h     0'00"
1000m   437km/h     1'03"
2000m   445km/h     2'00"
3000m   467km/h     3'02"
4000m   468km/h     4'14"
5000m   467km/h     5'38"
6000m   463km/h     7'17"

ソース(source)   



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データ②:『九七式戦闘機審査成績の概要』昭和12年12月
Data 2 : "Overview of the result of trial of type 97 fighter" Dec/1937

全幅(span)                   約11.310m
全長(lengh)          約7.530m
全高(height)         約3.280m
翼面積(wing area)       約18.560m^2
空虚重量(empty weight)   1110kg
全備重量(gross weight)    1510kg

エンジン名称(engine name)  97式650馬力(Type97 650HP) ≒ ハ1乙(Ha-1 otsu)
性能(performance)  地上馬力(PS on ground) 高度馬力/高度(PS/altitude) 回転数(RPM)
最大(maximum)       710         800/3500m       2600
正規(regular)         600         680/4000m       2400

飛行性能(flight performance)
高度    最高速度      上昇力
(Alt.)   (Max. speed)  (Clim. speed)
1000m   427km/h     1'10"
2000m   445km/h     2'05"
3000m   462km/h     2'59"
3500m   470km/h(critical altitude)
4000m   469km/h     4'04"
5000m   468km/h     5'22"

上昇限度(ceiling)
理論(abusolute)   12750m
実用(service)    12250m

ソース(source)   アジア歴史資料センター(https://www.jacar.go.jp/)
           レファレンスコード(reference code) C01004536600

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