WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

タグ:栄エンジン

はじめに
 前回の記事、『〈考察⑩〉栄31型の馬力性能について』内にて栄31型として考えられてきた馬力性能は栄31甲型の性能であったのでは?という考察をしましたが、新たな資料を見つけてしまったので追加報告をしたいと思います。
 結論から言ってしまえば、前回紹介した数値よりも栄31甲型は少しだけ悪い性能なのではないでしょうか。

新たな資料を見つけたよ
 早速その資料をご覧ください。コマ番号120ページに飛んでみると、「TABLE OF OPERATIONAL ENGINES」と題された1945年9月付の表を見ることができると思います。製作者は第一海軍技術廠(いわゆる空技廠)とみられます。敗戦後すぐに作成され、占領軍に提出したものでしょう。
 表をずっーとみていくと、「Ha-35mod.31(Sakae31)」と「mod.31ko(Sakae31ko)」が見つかるはずです。簡単に以下の表にまとめてみます。
sakae31ko
 全般的に31甲型の方が馬力、全開高度ともに31型よりも低いことが読み取れます。回転数が毎分2900回転になっているのは誤記だと思うので(?)を付けました。

考察
 ここで、「前回記事で書いたことは完全に間違っていた」と言うつもりはありません。記事内容の本質は間違っていないと確信しています。すなわち、栄31型のメタノール噴射時のブースト圧+300mmHgで全開高度が7000m近くになることは100%あり得ませんから、7000mで950馬力という性能値を栄31型のメタノール噴射時のものとするのは確実に誤りで、非噴射時の公称性能と考えるのが自然です。その上で、栄31型の非噴射時の公称性能=栄31甲型の公称性能とストレートに考えたというのが全開の記事の結論です。
 今回紹介した資料は全体的に記述におかしなところは少なく、信頼度は高いものと思います。この栄31甲型の性能も海軍内に残されていた正統なデータだと仮定すると、以下のような推論が成り立ちそうです。

1.前回「栄31甲型の性能」と考察した1080馬力@2700m、950馬力@7000mの公称性能は、あくまで「栄31型」の水メタノール非噴射時の2700rpm、+200mmHgでの性能である。
2.「栄31甲型」の公称運転時の性能は上記表にあるような数値である。
3.栄31型と31甲型の違いはメタノール噴射装置の有無くらいであるが、何らかの理由で非噴射時の性能に差が出ている。

では、その「何らかの理由」とは何なのでしょうか?正直納得できるものが思いつきません。
もしかしたら、31型の性能は甘めに計算した数値で、31甲型で測定し直してみたら結果が違ったのかもしれません。もしかしたら31甲型は大量生産の結果、材料品質・工作精度の低下があったのかもしれません。もしかしたら31型の毎分2900回転の記述は実は正しくて、2700回転の31甲型よりも高馬力だったのかもしれません。
 いずれにせよ現在与えられた情報では答えを得ることはできそうにありません。もっともっと調査を進めていく必要がありそうです。
 栄31甲型搭載の零戦の実際の全開高度が6800m付近にあることも加味すると、現在のところは栄31甲型の性能はこの表中のものであると考えていたほうがよさそうです。


余談
 ちなみにこの資料の中には火星26甲型の細かい性能も記載されています。今までほとんどよくわからなかった同エンジンですが、いろいろと面白い考察が出来るような気がします。次回は雷電33型をテーマにちょっと書いてみようと思っています。
 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想等お待ちしております。

はじめに
 タイトルのとおり海軍の零戦21型と陸軍の隼I型を性能の面から比較します。この手の比較は様々なメディアでやり尽くされている感がありますが、当ブログ得意の一次史料データを基にして考察していきたいと思います。今回もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

前提条件
 まずは機体の寸法や重量等について簡単な表をつくってみました。隼のデータは『一式戦闘機説明書』(昭和17年1月)から、零戦21型のデータは『取扱説明書 零式艦上戦闘機』(昭和19年10月)に拠っています。
隼1vs零戦21(spec)
 両者を比較してみると、隼のほうが零戦よりも一回り小さいことが分かります。重量はというと隼が大幅に軽く、正規重量で比べると400kg近くも軽いようです。
 なお、一次資料にもいくつかあってそれぞれ微妙に数字が違うのですが、どれも大きくは違わないので今回は上記の資料のデータを使用します。おそらく速度・上昇性能測定時の寸法・重量もこれと大きく異ならないだろうという前提のもとで論を進めていきます。


続いてエンジン性能についても比較してみます。これも取扱説明書から数値を抜き出しています。
隼1vs零戦21(enginetable)
 オクタン価が異なるために栄12型のほうがブースト圧が高くなっています。また、過給機の羽根車直径、増速比ともに栄12型の方が強化されているので、ブースト圧の差にも関わらず全開高度はハ25よりも高くなっています。一方でハ25は回転数を上げることで栄12型に対抗しており、地上や全開高度における馬力性能は栄12型に勝っていることが読み取れます。プロペラは直径は同じ2.9mで定回転式なのも同様ですが、隼はブレードが1枚少なくなっています。


 お次は速度性能、上昇性能についてです。I型の性能については当ブログ内の記事「一式戦闘機一型(キ43-I)「隼」の性能/Ki-43I Oscar」に、零戦21型については同じく「〈考察⑥-1〉零戦11・21型(A6M2)の速度性能について」に基づいて比較していきます。両者の性能を表にまとめてみると以下のようになります。
隼1vs零戦21(speedtable)
隼1vs零戦21(climbtable)
ぱっと見てわかるのは低高度帯での差はあまりないけれども、高度が高くなるにつれ速度性能は零戦の方が良くなり、上昇性能は隼の方が良くなるということでしょうか。


なお、それぞれの翼面荷重および馬力荷重は以下のようになります。
隼1vs零戦21(ratio)


グラフ化してみました
 ここまでは数字の羅列だけでしたが、視覚的に、直感的に理解しやすいように、高度とエンジン馬力、最高速度、上昇時間の関係をグラフで表してみました。青線が零戦21型(栄12型)、緑線が隼I型(ハ25)を示しています。なお、下記グラフには一部推測が含まれることをご了承ください。
隼1vs零戦21(engine)
隼1vs零戦21(speedandclimb)修正

(※2020/7/22画像微修正)
 隼と零戦の性能の関係性がぐっと分かりやすくなったのではないでしょうか?高度3000m半ばまではハ25の方が高馬力ですが4000mを超えると栄12型の方が優勢となり、速度性能にもはっきりと差がついていることが分かります。
 逆に上昇性能については高度が上がっていくにつれて両者の差は広がる一方なのが分かります。これは単純に隼の方がかなり軽いからでしょう。

疑問点
 ここで一つの疑問点が浮かび上がります。すなわち「なぜ隼のほうが零戦よりも小型・軽量かつ低高度での馬力が大きいのにも関わらず、4000m以下での速度性能がほとんど変わらないのか?」という疑問です。
 飛行機をより高速にしたければ、エンジン馬力を向上させるか、空気抵抗を軽減させることが重要になってきます。この場合ではエンジン馬力は隼の方が高いので、零戦の方が空気抵抗が少ないからというのが答えではないでしょうか。
 一方で、よく誤解されがちですが重量の増減は実はそこまで速度性能には影響がありません。重量が大きい方がたくさん揚力を必要とするので迎え角が大きくなり、結果として空気抵抗が増加することには繋がりますが、機体のサイズを小さくしたり機体の形状を滑らかにするほうがよっぽど効果的です。

そこで、この空気抵抗の差を生んだのはどこなのかを挙げてみると、
1.主翼・・・隼の前進翼 vs 零戦のテーパー翼
2.主脚・・・カバーなしの隼 vs カバーありの零戦
3.尾輪・・・固定式の隼 vs 格納式の零戦
4.風防・・・角型の隼 vs 曲線の零戦
といったところでしょうか。

 一方でプロペラ枚数の違いによる性能差は不思議とそこまで感じられません。零戦の設計者である堀越二郎氏も実は二枚プロペラにしたがっていた節がありますが、振動問題のため三枚に変更したようです。この辺りの影響は正直あまりよく分かりません。もしかしたら隼も3枚ペラにしたらそれなりにスピードアップするのでしょうか?

まとめ
 という訳で今回の考察はここまでとなります。
まとめると、
(1)速度に関しては4000m弱までは零戦も隼も大差はないが、それ以上になるとエンジン過給機の性能から大きく差がつく
(2)軽量な分だけ隼の方が上昇力が良好である。
(3)低高度では、両者のエンジン馬力差にも関わらず零戦と隼の速度差はほとんどない。これは零戦の方が空気抵抗が小さいからと考えられる。
といった感じです。

 ところで、零戦21型はその後主翼外板の厚みを増やしたことで剛性が増し、高速飛行時にシワが生じなくなったとのことで最高速度が約530km/hまで向上しています。隼I型も主翼の強度に不安を抱えており実戦においても空戦中に主翼が折れる事故が発生していましたから、零戦同様に主翼を厚くすれば速度性能が向上する可能性があります。参考までに、改修後の零戦21型の急降下制限速度は630km/hですが、隼I型は500km/hと極めて低い数値となっています。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました。もし好評なら今度は隼II型vs零戦32/22型もやってみようかなと思います。

はじめに
 栄31型と言えば零戦53/63型に搭載される予定で、水メタノール噴射装置の追加によってパワーアップを狙っていたものの様々な事情から戦力化することはなかったエンジンです。今日はこの栄31型とそのサブタイプの馬力性能について考えていきたいと思います。

 ところで、今回何故栄31型の考察記事を書こうかと思ったかというと、月刊誌「丸」内の連載記事「情熱零戦」(文:宮崎賢治氏、イラスト:藤井秀明氏)で丁度その話題について取り扱っていたからです。私は実は毎月「丸」を買っているわけではなくて航空機関連の特集の時だけ購入するのですが、「情熱零戦」の記事だけはちらっと本屋さんで確認して、おもしろそうならその記事のためだけに買っちゃいます。2ページの記事ですが、1370円分の価値はあると思います。

 それでは本題に入っていきましょう。今回の私の主張は、「一般に知られている栄31型のエンジン性能は、実は栄31甲型のものである」というものです。

栄31型とはなにか?
 そもそも栄31型とはなんなのでしょう。簡単に言えば栄21型の2速過給機羽根車の増速比を増し、水メタノール噴射装置を追加したエンジンです。これによって出力を増大させて零戦52型に搭載し、零戦53型としてさらなる性能向上を目指していました。しかしながら、技術的トラブルや人員不足等もあって栄31型の生産は捗らず、予定されていた零戦53型の量産はスケジュール通り進みませんでした。その穴を埋めるために作られたのが、とりあえず栄31型から水メタノール噴射装置を取り除いた栄31甲型と、栄31型から水メタを取り除き過給機を栄21型と同じものに戻した栄31乙型です。ですので実質的には栄31乙型は栄21型と同等の性能と考えて良いでしょう。
 以上の前提条件を踏まえて、考察に入っていきます。

今まで知られていた栄31型の馬力性能
 まずは、今まで考えられてきた栄31型の性能についてです。堀越・奥宮著『零戦』では公称馬力を高度7000mで950馬力としていますし、『世界の傑作機』でも離昇1100馬力、公称2700mで1080馬力、7000mで950馬力としています。各書籍でも栄31型の性能としてこの数字が用いられていることが多いと思います。
 これは決して裏付けのない数字ではありません。「栄31型」の性能として一次資料にも登場する数字です。1944年10月付の『零式艦上戦闘機取扱説明書』では以下のようになっています。
 離昇  1100ps 2800rpm +300mmHg
 公称  1080ps@2700m 2700rpm +200mmHg
       950ps@7000m 2700rpm +200mmHg
 一方で、戦後三菱がまとめた資料によると、栄31型の性能は上記の取扱説明書記載のものとほとんど同一ですが公称2速の部分のみ10分以下の制限において高度7000m、2800rpm、+300mmHGで950馬力を発揮するとしています。以上のように、確かに各書籍で出てくる栄31型の性能は一次資料でも確認できるものなのです。

一次資料中の疑問点
 しかしながら、これらの一次資料には疑問点が存在します。まずは取扱説明書内の数値について、明らかにおかしいのは公称回転数もブースト圧も栄21型と変わっていないという点です。水メタノール噴射は耐ノッキング性能を向上させ許容ブースト圧を上げるのが最大の目的ですから、栄21型と運転条件が変わっていないというのはあり得ません。

 その反論になりそうなのが三菱資料で、公称2速で水メタノール噴射によって離昇運転と同様の2800rpm、+300mmHGを実現したうえで高度7000mで950馬力を発揮するというのであれば、筋が通っています。ただし、+300mmHgでの全開高度が7000mなのであれば、公称+200mmHgの栄31甲型の全開高度は7000m以上、おそらく7500~8000m近くになるということを意味しています。
 それでは栄31甲型を搭載した零戦の全開高度は実際は高度何mだったのでしょうか?過去記事『〈考察⑥-3〉零戦52型(A6M5)の速度性能について』にて栄31甲型を装備した零戦の速度性能を紹介しましたし、今月の「丸」7月号の「情熱零戦」ではより詳細な性能値が掲載されています。それらを見てみると全開高度は約6800m付近になっています。つまり高度7000mで+300mmHgという運転条件はほぼ100%あり得ないのです。三菱は戦後に資料をまとめたため、水メタノール噴射時の運転条件と、そうでないときの運転条件を取り違えた可能性が高いです。

では本当の栄31型の性能は?
 ここまで今まで知られていた栄31型の性能は誤っていたということを論証してきました。それでは肝心の栄31型の本当の性能はどんなものだったのでしょうか?
 戦後すぐに占領軍の指示で三菱が提出した資料があります(URL:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8815801)。その資料中に「栄31型」として一速が2100mで1180馬力、二速が5950mで1090馬力という表記をみることが出来ます。また、「情熱零戦」2020年6月号では三菱曾根技師のノートの記述としてメタノール噴射の栄21型の性能と共に「仮称栄31型」の性能も紹介されており、公称馬力は前述のリンク付資料と同様で、離昇出力は1110馬力とし、運転条件は全て2800rpm、+300mmHgとなっています。これが真実の栄31型の性能であったと私は考えます。そして、これまで栄31型の性能だと考えられていた数値は栄31甲型のものであったと考えるのが自然だと思います。

まとめ
 それではまとめに入ります。栄31型として知られていた性能は栄31甲型の性能値だと考えられます。その理由として、
・運転条件が栄21型と同一。
・栄31甲型搭載機の2速全開高度の実測値が約6800mであり、7000mに近い。
ことが挙げられます。

栄31型シリーズの性能を以下にまとめてみましょう。
sakae31table
 栄31型の公称出力は水メタノール噴射時のもので、使用時間は10分間のみです。21型と31甲型の公称一速の馬力差・高度差については明確な答えが見つけられていません。

 最後に、零戦53型の性能はどういったものが予想されていたのでしょうか。昭和19年5月1日付の実験機性能表では高度6000mで315ノット(583km/h)とされています。10ノット程度の速度向上が期待されていたようです。もし零戦53型の量産が上手くいっていれば、金星62型に換装した零戦64型は不要だったかもしれませんね。

今回も最後までお読みいただきどうもありがとうございました。

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