はじめに
 一式陸上攻撃機の性能については、過去記事にて一一型・一三型のみ取り上げましたが、今回は二二型以降も加えています。しかしながら、詳細な性能データは手に入っていませんので、各タイプ毎の最高速度や上昇時間を簡単に紹介し、併せてその性能差について考えてみたいと思います。
 この記事の位置づけは、性能紹介+多少の考察といった感じで考えております。

各型式の性能表

 この表は海軍および三菱の資料に基づいています。「?」もしくは「括弧」がついている部分は私の推定であることを示しています。
※このままでは見辛いと思いますので別タブで開くなどしていただき、本文と併せてご覧いただければればと思います。
G4M性能比較表

 まずは一一型の性能から見ていくことにします。まず偵察状態の性能は試作1号機を用いて、飛行重量9500kgの状態で測定されています。また、爆弾倉には整流カバーが装着されているものと推察されます。というのも一式陸攻は二二型の途中まで開閉式の爆弾倉扉が無く、爆装状態では爆弾や魚雷が外から丸見えの状態で、爆弾の不要な偵察任務時は当該部分を隠すように整流カバーが取り付けられていたのです。そんなこんなで試作1号機は高度4200mで240kt(444km/h)を発揮しました。
 一方で一一型の爆撃状態では同高度で231kt(428km/h)を記録し、結果9ktのマイナスとなっています。なお、爆撃状態の総重量は12500kgが基本なのですが、脚強度の問題から初期の機体は12000kgに制限されていたようなので、この性能も重量が制限されていたものと思われます。ということで、この9ktの差は約3tの重量+爆雷装関係による空気抵抗の差と考えられます。

 次いで一三型です。本機は発動機を火星11型から15型に換装し高高度性能の向上を目指した型です。第241号機がまず試験的に本発動機に換装し実験を行った結果、偵察状態の重量9500kgにて、高度5900mで244kt(452km/h)と見事に性能アップを果たしています。さらに948号機では推力式単排出管装備の実験が行われ、同じく9500kgの重量で248kt(459km/h)@5450mと4ktの増速効果を得ています。全開高度が500m近く落ちているのは理由がよく分かりませんが、いずれにしても結果として全高度帯において最高速度が向上、上昇限度および上昇力も強化されています。また、三菱の資料では単排出管装備・爆撃状態での一三型の性能を高度5425mで239.5kt(444km/h)としています。
 まだまだ機体の改造は続きます。「一式ライター」と自軍から嘆かれたその防弾性能の強化のため、一三型の途中から防弾ゴムが主翼下面に貼られることになりました。その結果、空技廠の実験によると偵察状態において最高速度245kt(454km/h)@5320mとなり、5kt程度の速度低下が見られました。この時の排出管の形状はおそらく推力式のものと推察されます。速度低下の原因としてはゴムによる主翼断面の形状変化等による抵抗の増加が主なものと考えます。

 一式陸攻にとって最初の大きな改造は、G4M1からG4M2への進化でしょう。エンジンを水メタノール噴射装置が追加された火星21型へ換装し、主翼も層流翼形へと大きく変更されました。これが二二型です。これによって最高速度は一気に275kt(509km/h)へと向上するはずでした。
 しかしながら、現実はそう甘くはなく試作2号機の最高速度は高度5000mで253kt(469km/h)に留まっています。本機についてはVDM式プロペラを装備し、防弾ゴムは貼られていません。また排出管は非推力式とされていますが、他形式の機体の性能と比較するとやや疑問が残りますので表中には「?」を付しました。
 さらに悪いことに、装備が予定されていた最新のVDMプロペラは戦闘機への装備が優先されたため、二二型の量産機には旧式のハミルトン式プロペラ調速装置に天山のブレードを手直ししたものを装備することになってしまいました。その結果プロペラ効率は大きく低下し、主翼下面に防弾ゴムも取り付けられたG4M2の増加試作5号機の最高速度は重量12500kgの爆撃状態で236kt(437km/h)@4600mと一一型と同等の性能にまで落ち、発動機の出力向上にも関わらずむしろ上昇性能に関しては悪化さえしています。ここまでの性能悪化をみると本機については爆弾倉扉も付いていない状態で試験したものと思われます。

 ところで、火星21型装備の二二型は雷電同様ひどい振動に悩まされました。そのためプロペラ減速比を変更した火星25型にエンジンを換装したのが一式陸攻二四型です。本機の第1号機は重量11000kgにて243kt(450km/h)@5157.5mを記録し、二二型と比較し7ktの速度向上を得ています。これは飛行重量の影響を除くと振動問題の解消および二二型の途中から導入された爆弾倉扉の効果と考えられます。
 なお、桜花搭載用の二四丁型は海軍の諸元表によると高度4600mで214kt(396km/h)と大きく速度を落としています。極端な重量と空気抵抗の増加を受けた結果と考えられ、これでは目標到達前に撃墜されるのもむべなるかなといった印象です。

 一方で高高度性能を向上させた火星27型を装備した一式陸攻二五型が1機だけ試作されました。本機は高度6670mで251.6kt(466km/h)と優秀な成績を残しましたが、発動機生産工場の被爆によって後が続きませんでした。本機は雷電でいうと三三型に相当する機種であり、この性能は雷電三三型の性能を推定する際の参考となり得ます。

 一式陸攻最後の大改造はG4M3、一式陸攻三四型となります。これは一式陸攻の完全防弾を目指したもので、翼下面の防弾ゴムを廃止して翼内防弾タンクを備えたため、主翼の構造はほとんど別物となっています。この三四型の試作3号機は重量11000kgで最高速度259.7kt(481km/h)@5066m全タイプの中で最優秀の成績を残しています。ちなみに、海軍系の資料では三四型のプロペラをハミルトン式としていますが、三菱系の資料ではVDMとしています。おそらく二二型と同様に初期の試作機はVDMを装備し、量産機はハミルトン式だったのではないでしょうか。試作3号機の259.7ktという数値も、他の機体との比較からVDM装備であったと考えるのが妥当だと感じています。
 その他にも、三四型の性能としては三菱の資料に登場する高度4890mで254kt(470km/h)という数値や、海軍の資料に現れる高度5000mで246kt(456km/h)というデータがあります。この両者の関係については資料に乏しく推測するのも難しいといった感じですが、少なくとも後者の246ktという数値は二四型の243ktから3kt速くなっており、防弾ゴム廃止の効果とみることが出来るのではないでしょうか。


 さて、矢継ぎ早に一式陸攻の各型式の性能を概観してきました。結局のところ、速度性能という観点から言えば性能の向上はほとんど見られなかったと言ってよいと思います。一方で防御性能については順次強化されていき、少なくとも三四型においては「一式ライター」の汚名は返上することができていたのではないかと思います。
 賛否両論ある一式陸攻の葉巻型のその外観は、スマートではないにしても、精悍で力強い印象を受けます。私は格好いいと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?