はじめに
過去記事『〈考察⑧-2〉紫電の性能について』にてあるコメントを頂きました。「誉搭載機の運転制限前後の性能が単純な割り算の3乗根になっているのでは?」という推察です。
一般に、速度を2倍にしたいなら馬力を8倍にしなければならないと言われます。ただし、飛行機の場合は高度による空気密度の変化があるため単純な3乗根の計算では正確な数字は出ません。
そこで、自分なりに誉エンジン搭載機の運転制限前後の性能を推定してみようと思ったのが今回の記事のきっかけです。これからも皆様の感想やコメントをお待ちしております。たいへん励みになります。
基本の計算式
という訳でいろいろと調べてみたところ、航空機の水平速度は以下のような計算で求めることができるようです。(手書きで恐縮ですが、一番見やすいと思ったのでこうしました)
まずは、堀越・奥宮『零戦』に記載されている雷電の数値を使って計算の練習をしてみます。

そうすると、
V^3=8813*(1.225/0.7013)*(0.74*1450)/(0.0265*20.05)
=31088193...
となり、
V=314.43...
というわけで314ktという数字を導き出すことができました。
それじゃあこんな感じで進めていきます。
なお、誉エンジン各型の公称2速性能は以下のようなものとします。
ハ45-11(誉11型) 1440PS@5700m
ハ45-12(誉12型) 1495PS@6550m
ハ45-21(誉21型) 1625PS@6100m
紫電改の性能を推測する
まずは紫電改の性能から。
本機はハ45-11搭載時に高度5600mで321ktを発揮したと仮定したうえで、まずはη/Cxを求めます。
321^3=8813*(1.225/0.689871)*(1440/23.5)*η/Cx
η/Cx≒34.5
このη/Cxを使って、馬力や高度などの条件を変えながら計算していきます。
なお今回はエンジン(プロペラ)を換装して最高速度に変化があってもη/Cxは変わらないものとしています。
ハ45-12装備時
V^3=8813*(1.225/0.620821)*(1495/23.5)*34.5
V≒337kt(624km/h)@6550m
ハ45-21装備時
V^3=8813*(1.225/0.652828)*(1625/23.5)*34.5
V≒340kt(630km/h)@6100m
という訳で、ハ45-12装備時の紫電改は620km/h少々は出せそうです。実際に運転制限下の紫電改試作機が620km/hを発揮したことがあるようですが、この計算結果を見る限り誉12型相当の運転条件であった可能性が高そうです。
一方で運転制限解除後の誉21型搭載機の計算結果は630km/hに留まっています。操縦参考書記載の644km/hという数字はやや過剰とも考えられます。
紫電の性能を推測する
続いて紫電です。
ハ45-11搭載時に高度5900mで315ktを出したと仮定した場合、計算したところη/Cxは約31.5となりました。そのうえで、
ハ45-12装備時は約327kt(606km/h)@6550mという数字が、
ハ45-21装備時は約330kt(611km/h)@6100mという数字が得られました。
以前の記事で紫電の最高速度については325kt(602km/h)というものもあると紹介しましたが、誉12型搭載時の計算結果にかなり近いことが分かります。
なお、運転制限を解除しても紫電の速度は当初の計画値から40km/hほど遅く、しかも運転制限下の紫電改とさして変わらないことが分かります。
疾風の性能を推測する
今度は四式戦闘機「疾風」です。
疾風はハ45-12搭載時に高度6550mで624km/hを発揮したと仮定したうえでη/Cxを計算してみると、約30.9という数字になりました。
そこで、ハ45-21装備時の最高速度を求めてみると、約341kt(632km/h)@6100mとなりました。
疾風試作機が運転制限ではない運転条件で、高度6120mで631km/hを発揮したとされていますから、計算値と実測値とがよく合っているようです。
一方でハ45-11装備時の性能も計算してみると、約322kt(596km/h)@5700mという数字が出てきました。
実は、個人的には疾風にもハ45-11搭載機がいたのではと考えています。なぜなら、陸軍の技術関係者のメモに疾風の最高速度が583km/hとか595km/hなどという数字が見られるからです。どうにも遅すぎるこの速度は、ハ45-11を装備していたからだと考えると辻褄が合うのです。
ところで、乙型試作機が高度6000mで660km/hを出したという原資料不明の話があります。しかし、今回の計算結果では30km/hほど足りません。集合排気管が単排気管になり、プロペラ直径が10cm伸びたところで30km/hの差を埋めることはできるのでしょうか?少し疑問が残ります。
おわりに
これで今回の考察は以上となります。なお今回の計算結果は多くの仮定を含んだあくまで「推測」であってある種の「遊び」の域を出ません。それでもいくつかの示唆を得ることはできるのではないかと思っています。皆さんも今日紹介した計算式を使って遊んでみてはいかがでしょうか。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
過去記事『〈考察⑧-2〉紫電の性能について』にてあるコメントを頂きました。「誉搭載機の運転制限前後の性能が単純な割り算の3乗根になっているのでは?」という推察です。
一般に、速度を2倍にしたいなら馬力を8倍にしなければならないと言われます。ただし、飛行機の場合は高度による空気密度の変化があるため単純な3乗根の計算では正確な数字は出ません。
そこで、自分なりに誉エンジン搭載機の運転制限前後の性能を推定してみようと思ったのが今回の記事のきっかけです。これからも皆様の感想やコメントをお待ちしております。たいへん励みになります。
基本の計算式
という訳でいろいろと調べてみたところ、航空機の水平速度は以下のような計算で求めることができるようです。(手書きで恐縮ですが、一番見やすいと思ったのでこうしました)

これによると、馬力は高度5450mで1450PS、抗力係数は0.0265、プロペラ効率は0.74で最高速度は314ktという計算となっています。なお、雷電の翼面積は20.05m^2です。また、高度5450mでの空気密度は0.7013kg/m^3とします(ここから拾いました)。
そうすると、
V^3=8813*(1.225/0.7013)*(0.74*1450)/(0.0265*20.05)
=31088193...
となり、
V=314.43...
というわけで314ktという数字を導き出すことができました。
それじゃあこんな感じで進めていきます。
なお、誉エンジン各型の公称2速性能は以下のようなものとします。
ハ45-11(誉11型) 1440PS@5700m
ハ45-12(誉12型) 1495PS@6550m
ハ45-21(誉21型) 1625PS@6100m
紫電改の性能を推測する
まずは紫電改の性能から。
本機はハ45-11搭載時に高度5600mで321ktを発揮したと仮定したうえで、まずはη/Cxを求めます。
321^3=8813*(1.225/0.689871)*(1440/23.5)*η/Cx
η/Cx≒34.5
このη/Cxを使って、馬力や高度などの条件を変えながら計算していきます。
なお今回はエンジン(プロペラ)を換装して最高速度に変化があってもη/Cxは変わらないものとしています。
ハ45-12装備時
V^3=8813*(1.225/0.620821)*(1495/23.5)*34.5
V≒337kt(624km/h)@6550m
ハ45-21装備時
V^3=8813*(1.225/0.652828)*(1625/23.5)*34.5
V≒340kt(630km/h)@6100m
という訳で、ハ45-12装備時の紫電改は620km/h少々は出せそうです。実際に運転制限下の紫電改試作機が620km/hを発揮したことがあるようですが、この計算結果を見る限り誉12型相当の運転条件であった可能性が高そうです。
一方で運転制限解除後の誉21型搭載機の計算結果は630km/hに留まっています。操縦参考書記載の644km/hという数字はやや過剰とも考えられます。
紫電の性能を推測する
続いて紫電です。
ハ45-11搭載時に高度5900mで315ktを出したと仮定した場合、計算したところη/Cxは約31.5となりました。そのうえで、
ハ45-12装備時は約327kt(606km/h)@6550mという数字が、
ハ45-21装備時は約330kt(611km/h)@6100mという数字が得られました。
以前の記事で紫電の最高速度については325kt(602km/h)というものもあると紹介しましたが、誉12型搭載時の計算結果にかなり近いことが分かります。
なお、運転制限を解除しても紫電の速度は当初の計画値から40km/hほど遅く、しかも運転制限下の紫電改とさして変わらないことが分かります。
疾風の性能を推測する
今度は四式戦闘機「疾風」です。
疾風はハ45-12搭載時に高度6550mで624km/hを発揮したと仮定したうえでη/Cxを計算してみると、約30.9という数字になりました。
そこで、ハ45-21装備時の最高速度を求めてみると、約341kt(632km/h)@6100mとなりました。
疾風試作機が運転制限ではない運転条件で、高度6120mで631km/hを発揮したとされていますから、計算値と実測値とがよく合っているようです。
一方でハ45-11装備時の性能も計算してみると、約322kt(596km/h)@5700mという数字が出てきました。
実は、個人的には疾風にもハ45-11搭載機がいたのではと考えています。なぜなら、陸軍の技術関係者のメモに疾風の最高速度が583km/hとか595km/hなどという数字が見られるからです。どうにも遅すぎるこの速度は、ハ45-11を装備していたからだと考えると辻褄が合うのです。
ところで、乙型試作機が高度6000mで660km/hを出したという原資料不明の話があります。しかし、今回の計算結果では30km/hほど足りません。集合排気管が単排気管になり、プロペラ直径が10cm伸びたところで30km/hの差を埋めることはできるのでしょうか?少し疑問が残ります。
おわりに
これで今回の考察は以上となります。なお今回の計算結果は多くの仮定を含んだあくまで「推測」であってある種の「遊び」の域を出ません。それでもいくつかの示唆を得ることはできるのではないかと思っています。皆さんも今日紹介した計算式を使って遊んでみてはいかがでしょうか。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。


コメント
コメント一覧 (16)
しかも、今回のテーマは、まさに、私が長年知りたかったことそのものでして、個人的に、改めて御礼申し上げる次第です。本当に感謝しております。
blog主さまは、記事最後で、推測による遊びと断っておられますが、そんな事はありません。今回の計算例と考察は、当時の最高速度推算手法を再現仕切ったというのが私の感想です。
これまでに、航空情報を扱うwebサイトやblog、各種掲示板の書き込み等でも、航空機の最高速度計算についての考察は多々ありました。今回のblog主さまの考察に近いものも多少は存在しています。しかし、それを、確度の高いエンジン側一次情報に基づいて再計算し、機体側の計測結果と体系的に比較した分析は存在せず、画期的なレポートになっています。特に、ここに至るまでに、誉11型、12型、21型についての(考察④シリーズ)を続けてこられたことが、各機の速度分析結果の信憑性を決定的に高める要素になったと感じています。
(今後、航空情報誌には、今回のblog主さまの記事から影響を受けたコラムなり記事なりが載ると私は予想しています。)
その確度ですが、冒頭で練習問題に活用された雷電で、早くも証拠が得られています。
つまり、当時は、今回blog主さまが再現された手法を用い、航空機の水平速度計算を実施していたことがわかります。そのため、設計上の要点を述べた回想録でも、Cx値低減への工夫が数多く残される結果になったのでしょう。
紫電改、紫電、疾風の性能計算については、今回の記事自体が、多くの人への回答になったという感想をただ持つだけです。素晴らしい!
(ご迷惑とは思いますが、つづきます笑。本コメントも含め削除いただいても全く構いません。)
warbirdperforma
nce
が
しました
具体的には、紫電改644km/hについてです。すでに、考察⑧-2のレスポンスで 暗にご指摘 もいただきましたように、この数値は、誉12型試作機が記録した性能をもとに、軍側が単純計算で推算している可能性が高まりました。本来、高度の上昇に伴う過給圧力の低下と空気密度の変化を計算に盛り込む必要があるはずですが、その部分を完全に無視している印象です。(プロペラ改良も必要)紫電改の644km/hは運転制限を解除した21型を適用するだけでは達成できません。これがはっきりわかっただけでも大変な収穫と捉えております。
(一応、終戦時点で誉25型1600hp 7100mなどが試験されてはいますが、これを搭載するものは、もはや紫電21型ではないと思います)
2.紫電:330kt!ひょっとして…
私が父からもらった「日本海軍機写真集:エアーワールド別冊1985年2月」という古い本があります。巻末に「日本海軍機要目一覧」表が掲載されているのですが、「紫電」二一型の最高速度がまさに330kt(611km/h)なのです。この数値は"「紫電」二一型"の値としての記載です。しかし、ここまでの各記事での考察から、数値の流用が多数行われた可能性を私は全面的に支持します。つまり、ハ45-21搭載の紫電11型が存在し、その実測結果を流用した可能性があると思っています。同時に、blog主さまの計算と考察の確度は更に高まった!と勝手に納得しています。
3.疾風:実際の性能
多くの読者の方が食い入るように見ているのがこれではないでしょうか。何しろ、今日まで伝わる疾風の性能「631km/h」についての回答がついに得られたのですから。
warbirdperforma
nce
が
しました
疾風ファン(笑)としては、量産型で機首銃口部分が洗練されたり、「鍾馗」が試験飛行後に(防火壁前方を目張りしたというやつ)改良できた…というとリファインの他、ご指摘されるプロペラ3.1mへの拡大に期待をしたいところです。当然、他記事で言及されておられる推力排気管の効果も加点要素です。
ただ、それらを全部足しても、660k/hには及ばない印象が非常に強いです。
660km/h説を有名にした「書籍」は以下だと思います。
(1)日本軍用機航空全史・第四巻・本土防空の勇者を目指して(秋元実・グリーンアロー出版社):P.28
(2)歴史群像太平洋戦史シリーズ46 四式戦闘機疾風(学習研究社:P.77)
(3)未確認:光人社NF文庫 軍用機開発物語―設計者が語る秘められたプロセス (各設計者・潮書房光人新社)
このうち(3)は書籍を紛失し確認できません。記憶による記述であり大変すみません。内容は、疾風そのもの記事ではなく彩雲設計の内藤子生氏の回想での比較でした。彩雲は、試験時に653km/hを達成しています。その際、658km/hとして疾風の数字が表に掲載されていました。
私は、まさに今回のblog主さまの記事を、長年、読みたくて仕方なかったのです。記事内容だけでなく、計算手法から記事の構成まで、すべて、私にとっては本当に参考になるレポートでした。
改めて御礼申し上げます。どうもありがとうございました。今後も楽しみにしております!
warbirdperforma
nce
が
しました
www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass1953/1/3/1_3_138/_pdf/-char/ja
640kph at 6900m with 1620HP engine power, Cx=0.021
Unfortunatelly, the article didn't provide more detail. The 6900m full throttle height is strange. Maybe the data is an early estimation of Kawanishi? Put the data into the formulation, I can get η/Cx≒33.06, η≒0.694. The propeller efficiency seems to be a bit low...
warbirdperforma
nce
が
しました
warbirdperforma
nce
が
しました
この記事に限らず、色々な資料を用いて検証されていて凄いなと感心しているのですが、
1点気になる事があり、突っ込みをさせて頂きます。
計算されるのは良いのですが、『1馬力=1ps』で処理されているように見える点が問題と思えました。
当時は『1馬力=1hp』が基本だったと思うので。
基本としたのは、ドイツとかのようにps表記のカタログ値は『1ps=1馬力』と、部分的に単位が混在していた様なのが理由です。
手元に本が無くうろ覚えですが、
堀越二郎・奥宮正武共著の『零戦』でも、堀越氏の記したデータを逆算などすると
『1馬力(1ps)=75kgf m/s』ではなく『1馬力(1hp)=76kgf m/s』になっていたと記憶しています。
warbirdperforma
nce
が
しました