はじめに
タイトルのとおり海軍の零戦21型と陸軍の隼I型を性能の面から比較します。この手の比較は様々なメディアでやり尽くされている感がありますが、当ブログ得意の一次史料データを基にして考察していきたいと思います。今回もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
前提条件
まずは機体の寸法や重量等について簡単な表をつくってみました。隼のデータは『一式戦闘機説明書』(昭和17年1月)から、零戦21型のデータは『取扱説明書 零式艦上戦闘機』(昭和19年10月)に拠っています。

お次は速度性能、上昇性能についてです。I型の性能については当ブログ内の記事「一式戦闘機一型(キ43-I)「隼」の性能/Ki-43I Oscar」に、零戦21型については同じく「〈考察⑥-1〉零戦11・21型(A6M2)の速度性能について」に基づいて比較していきます。両者の性能を表にまとめてみると以下のようになります。


なお、それぞれの翼面荷重および馬力荷重は以下のようになります。

グラフ化してみました
ここまでは数字の羅列だけでしたが、視覚的に、直感的に理解しやすいように、高度とエンジン馬力、最高速度、上昇時間の関係をグラフで表してみました。青線が零戦21型(栄12型)、緑線が隼I型(ハ25)を示しています。なお、下記グラフには一部推測が含まれることをご了承ください。


逆に上昇性能については高度が上がっていくにつれて両者の差は広がる一方なのが分かります。これは単純に隼の方がかなり軽いからでしょう。
疑問点
ここで一つの疑問点が浮かび上がります。すなわち「なぜ隼のほうが零戦よりも小型・軽量かつ低高度での馬力が大きいのにも関わらず、4000m以下での速度性能がほとんど変わらないのか?」という疑問です。
飛行機をより高速にしたければ、エンジン馬力を向上させるか、空気抵抗を軽減させることが重要になってきます。この場合ではエンジン馬力は隼の方が高いので、零戦の方が空気抵抗が少ないからというのが答えではないでしょうか。
一方で、よく誤解されがちですが重量の増減は実はそこまで速度性能には影響がありません。重量が大きい方がたくさん揚力を必要とするので迎え角が大きくなり、結果として空気抵抗が増加することには繋がりますが、機体のサイズを小さくしたり機体の形状を滑らかにするほうがよっぽど効果的です。
そこで、この空気抵抗の差を生んだのはどこなのかを挙げてみると、
1.主翼・・・隼の前進翼 vs 零戦のテーパー翼
2.主脚・・・カバーなしの隼 vs カバーありの零戦
3.尾輪・・・固定式の隼 vs 格納式の零戦
4.風防・・・角型の隼 vs 曲線の零戦
といったところでしょうか。
一方でプロペラ枚数の違いによる性能差は不思議とそこまで感じられません。零戦の設計者である堀越二郎氏も実は二枚プロペラにしたがっていた節がありますが、振動問題のため三枚に変更したようです。この辺りの影響は正直あまりよく分かりません。もしかしたら隼も3枚ペラにしたらそれなりにスピードアップするのでしょうか?
まとめ
という訳で今回の考察はここまでとなります。
まとめると、
(1)速度に関しては4000m弱までは零戦も隼も大差はないが、それ以上になるとエンジン過給機の性能から大きく差がつく
(2)軽量な分だけ隼の方が上昇力が良好である。
(3)低高度では、両者のエンジン馬力差にも関わらず零戦と隼の速度差はほとんどない。これは零戦の方が空気抵抗が小さいからと考えられる。
といった感じです。
ところで、零戦21型はその後主翼外板の厚みを増やしたことで剛性が増し、高速飛行時にシワが生じなくなったとのことで最高速度が約530km/hまで向上しています。隼I型も主翼の強度に不安を抱えており実戦においても空戦中に主翼が折れる事故が発生していましたから、零戦同様に主翼を厚くすれば速度性能が向上する可能性があります。参考までに、改修後の零戦21型の急降下制限速度は630km/hですが、隼I型は500km/hと極めて低い数値となっています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。もし好評なら今度は隼II型vs零戦32/22型もやってみようかなと思います。

両者を比較してみると、隼のほうが零戦よりも一回り小さいことが分かります。重量はというと隼が大幅に軽く、正規重量で比べると400kg近くも軽いようです。
なお、一次資料にもいくつかあってそれぞれ微妙に数字が違うのですが、どれも大きくは違わないので今回は上記の資料のデータを使用します。おそらく速度・上昇性能測定時の寸法・重量もこれと大きく異ならないだろうという前提のもとで論を進めていきます。
続いてエンジン性能についても比較してみます。これも取扱説明書から数値を抜き出しています。

オクタン価が異なるために栄12型のほうがブースト圧が高くなっています。また、過給機の羽根車直径、増速比ともに栄12型の方が強化されているので、ブースト圧の差にも関わらず全開高度はハ25よりも高くなっています。一方でハ25は回転数を上げることで栄12型に対抗しており、地上や全開高度における馬力性能は栄12型に勝っていることが読み取れます。プロペラは直径は同じ2.9mで定回転式なのも同様ですが、隼はブレードが1枚少なくなっています。
なお、一次資料にもいくつかあってそれぞれ微妙に数字が違うのですが、どれも大きくは違わないので今回は上記の資料のデータを使用します。おそらく速度・上昇性能測定時の寸法・重量もこれと大きく異ならないだろうという前提のもとで論を進めていきます。
続いてエンジン性能についても比較してみます。これも取扱説明書から数値を抜き出しています。



ぱっと見てわかるのは低高度帯での差はあまりないけれども、高度が高くなるにつれ速度性能は零戦の方が良くなり、上昇性能は隼の方が良くなるということでしょうか。
なお、それぞれの翼面荷重および馬力荷重は以下のようになります。

グラフ化してみました
ここまでは数字の羅列だけでしたが、視覚的に、直感的に理解しやすいように、高度とエンジン馬力、最高速度、上昇時間の関係をグラフで表してみました。青線が零戦21型(栄12型)、緑線が隼I型(ハ25)を示しています。なお、下記グラフには一部推測が含まれることをご了承ください。


(※2020/7/22画像微修正)
隼と零戦の性能の関係性がぐっと分かりやすくなったのではないでしょうか?高度3000m半ばまではハ25の方が高馬力ですが4000mを超えると栄12型の方が優勢となり、速度性能にもはっきりと差がついていることが分かります。逆に上昇性能については高度が上がっていくにつれて両者の差は広がる一方なのが分かります。これは単純に隼の方がかなり軽いからでしょう。
疑問点
ここで一つの疑問点が浮かび上がります。すなわち「なぜ隼のほうが零戦よりも小型・軽量かつ低高度での馬力が大きいのにも関わらず、4000m以下での速度性能がほとんど変わらないのか?」という疑問です。
飛行機をより高速にしたければ、エンジン馬力を向上させるか、空気抵抗を軽減させることが重要になってきます。この場合ではエンジン馬力は隼の方が高いので、零戦の方が空気抵抗が少ないからというのが答えではないでしょうか。
一方で、よく誤解されがちですが重量の増減は実はそこまで速度性能には影響がありません。重量が大きい方がたくさん揚力を必要とするので迎え角が大きくなり、結果として空気抵抗が増加することには繋がりますが、機体のサイズを小さくしたり機体の形状を滑らかにするほうがよっぽど効果的です。
そこで、この空気抵抗の差を生んだのはどこなのかを挙げてみると、
1.主翼・・・隼の前進翼 vs 零戦のテーパー翼
2.主脚・・・カバーなしの隼 vs カバーありの零戦
3.尾輪・・・固定式の隼 vs 格納式の零戦
4.風防・・・角型の隼 vs 曲線の零戦
といったところでしょうか。
一方でプロペラ枚数の違いによる性能差は不思議とそこまで感じられません。零戦の設計者である堀越二郎氏も実は二枚プロペラにしたがっていた節がありますが、振動問題のため三枚に変更したようです。この辺りの影響は正直あまりよく分かりません。もしかしたら隼も3枚ペラにしたらそれなりにスピードアップするのでしょうか?
まとめ
という訳で今回の考察はここまでとなります。
まとめると、
(1)速度に関しては4000m弱までは零戦も隼も大差はないが、それ以上になるとエンジン過給機の性能から大きく差がつく
(2)軽量な分だけ隼の方が上昇力が良好である。
(3)低高度では、両者のエンジン馬力差にも関わらず零戦と隼の速度差はほとんどない。これは零戦の方が空気抵抗が小さいからと考えられる。
といった感じです。
ところで、零戦21型はその後主翼外板の厚みを増やしたことで剛性が増し、高速飛行時にシワが生じなくなったとのことで最高速度が約530km/hまで向上しています。隼I型も主翼の強度に不安を抱えており実戦においても空戦中に主翼が折れる事故が発生していましたから、零戦同様に主翼を厚くすれば速度性能が向上する可能性があります。参考までに、改修後の零戦21型の急降下制限速度は630km/hですが、隼I型は500km/hと極めて低い数値となっています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。もし好評なら今度は隼II型vs零戦32/22型もやってみようかなと思います。
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