はじめに
 零戦の各型の性能について、もう少し掘り下げて考えていきたいと思います。今回は零戦11型/21型(A6M2)についてとし、それ以降の型については次回以降にやっていこうと思います。

2種類の速度性能:509km/hと533km/h
 零戦21型の最高速度としては、前回の記事(http://warbirdperformance.livedoor.blog/archives/2748920.html)に書いたように、509km/h@5000mという数字と、533km/h@4550mという数字が知られています。なぜ同一の機種、同一のエンジンで25km/h近くも差がでるのでしょうか?
 結論から言うと、下川大尉の空中分解事故の対策として主翼外板の厚さを増したことによって、主翼にシワが生じなくなったから、というのが大きな理由です。そのため、この事故以前と以後でA6M2の速度性能は異なるということになります。この空中分解事故は41年4月17日に発生し、真珠湾攻撃の訓練中だった艦載機は突貫工事で改修が行われたため、開戦時に攻撃に参加した機体は改修後のものということになります。

改修前の性能
というわけで改修前の零戦の性能として、複数の資料を統合して以下の表を作成しました。
数値は実測値です。

  高度      最高速度     上昇時間
  (Alt.)     (Max. speed)  (Clim. speed)
  1000m   237.0kt(439km/h)   1'11"
  2000m   248.0kt(459km/h)   2'21"
  3000m   259.5kt(480km/h)   3'31"
  4000m   270.5kt(501km/h)   4'40"
  4400m   275.0kt(509km/h)
  5000m   275.0kt(509km/h)   5'56"
  6000m   273.0kt(506km/h)   7'27"
  7000m                                  9'23"
上昇限度(ceiling)
 理論(abusolute)   10300m
 実用(service)     10080m

改修後の性能
 上昇時間については改修後の数値は見つかっていません。最高速度についてはいくつかあるようです。よく知られているのは、288kt(533km/h)@4550mというものでしょう。一方で当時三菱で零戦の開発にかかわった曾根技師のノートでは616号機の性能として同高度で286kt(530km/h)という数字が見られます。もしかしたら、「288kt」は「286kt」の誤記かもしれません(逆かもしれませんが)。
 一方、海軍には高度4200mで288.5kt(534km/h)3000mで272kt(504km/h)という数字も残されているようです。いずれにせよ、改修後の零戦21型は高度4000m半ばにおいて530km/h前後の性能を発揮できたのは間違いないでしょう。

米軍による性能値
 42年10月付の米陸軍によるレポートでは、零戦21型の性能として以下の数値を掲載しています。これは一連の飛行テストを基に較正された数値です。なお、原文中の16000ftの部分がかすれていて判読が難しく、もしかしたら18000ftかもしれません。
   高度        最高速度
     (Alt.)       (Max. speed)
         0ft(      0m)   270.0mph(435km/h)
   5000ft(1524m)   287.0mph(462km/h)
 10000ft(3048m)   305.0mph(491km/h)
 16000ft(4877m)   326.0mph(525km/h)
 20000ft(6096m)   321.5mph(517km/h)
 25000ft(7620m)   315.0mph(507km/h)
 30000ft(9144m)   306.0mph(492km/h)
  実用上昇限度 約38500ft(11735m)
日本側の数値よりは多少小さいですが525km/hという数字を見ることができます。実戦で使われていた機体かつ不時着した鹵獲機体から得られた数値ということを考えるとかなり妥当なところではないでしょうか。

終わりに
 今回は零戦11型/21型の性能を詳しく見ましたが、下川大尉の事故前後で速度性能が約510km/hから約530km/hへ大きく向上していることが日本側の資料で良く分かりました。また、米軍のテスト結果でも約525km/hとそれに近い数値が得られていました。
 本記事はwebサイト記事「零戦再考」(URL: http://www.warbirds.jp/truth/zeke.html)を大いに参考にしています。必読です。そのほか杉田親美著『三菱海軍戦闘機設計の真実』国書刊行会、「丸」編集部編『零式艦上戦闘機 永遠の名戦闘機 ゼロファイターの全貌』、防衛研究所所蔵各種資料、webサイト「WWII Aircraft Performance」内の米軍レポート(URL: http://www.wwiiaircraftperformance.org/japan/intelsum85-dec42.pdf)等を参考としています。
 最後までお読み頂きありがとうございました。