はじめに
 東南アジア博物館シリーズの第二弾は、シンガポール空軍博物館です。この博物館には日本ゆかりの機体こそないものの、貴重な飛行機を見学することができます。
 それでは早速スタートです!!

概要
 この博物館は、パヤレバー空軍基地に隣接して建てられています。開館日時は火曜日から土曜日の9時から16時までとなっており、日曜および月曜は閉館日ですので訪問の計画を立てる際は注意が必要です。

 訪問の際には、公共交通機関であればバスを利用することができます。地下鉄東西線のEunos駅から94番のバスに乗ってAir Force Museumのバス停で降りると博物館は目の前です。なお、バスの運行状況はグーグルマップでも見ることができます。
 バスに乗る際には、日本のスイカやパスモのような地下鉄にも利用できるez-linkカードを購入しておくと便利です。その他にも沢山観光したいという方には、乗り放題のシンガポール・ツーリスト・パスをおすすめします。
 バスに乗る際の注意点として、バス停でただ待っているだけではバスは停まってくれませんので、タクシーを呼ぶように運転手にアピールする必要があります。また、降りる際にはアナウンスも何もありませんので、自分で現在地を降りるバス停を把握して降車ボタンを押す必要があります。慣れるまでは緊張しますね。

展示機紹介
 さてさて、地下鉄とバスを乗り継いで無事博物館に到着することができました。
 この博物館の見どころは、駐車場部分の屋外展示機のほか、建物内側の展示機および建物2階のギャラリーに大きく分けられます。
IMG_9310
 しかしながら、ギャラリー展示よりは実機について皆さん興味があると思いますので、ギャラリー展示については公式のパンフレットを添付してお茶を濁したいと思います。
パンフレット(4.59MB)

 ということで、まずは屋外の展示機から見ていきましょうか。
 この博物館の特徴は、屋外展示機は飛行状態で展示されているということです。たとえば、下の画像の伊アエルマッキ社のSF.260は、脚出し状態ではありますが、まさに飛んでいるよう。
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 こちらも同じく伊アエルマッキのS.211です。少し汚れが目立ちますが、パイロットのマネキンも乗り込んでいます。この機体はシンガポールのほかにはフィリピン空軍やハイチ空軍などでしか運用されておらず、なかなか貴重な飛行機だと言えます。
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 英ホーカー社の「ハンター」に至っては、青空をバックに撮影すれば、あたかも空を自由に飛び回っているようです。ちなみにハンターは屋内にも展示機があるので、近くで見学することもできます。
Hunter_b

 こちらは米ダグラス社の傑作艦上攻撃機「スカイホーク」にシンガポール空軍独自の改修を施したA-4SU「スーパースカイホーク」です。スカイホークは屋内にも2機+機首部分のみ1機が展示されていますので、記事の後半でじっくりと見てみましょう。
A-4SU_outside

 同じくグラマン社による開発の早期警戒機、E-2C「ホークアイ」です。航空自衛隊でも運用されています。
E-2

 ヘリコプターももちろん展示されています。迷彩塗装のベルUH-1とアエロスパシアルAS-350が仲良く並んでいますよ。
AS350_and_UH-1

 外は熱帯の灼熱地獄です。続いて中に入ってみましょう。ちなみに入館は無料ですが、記帳を求められたような記憶があります。

 それでは中に入り、左手から時計回りに展示機を紹介していきます。

 まず一番手前はスカイホークの複座型、TA-4Sの機首部分です。
TA-4S

 その奥には東南アジアではお馴染みのF-5「タイガーII」のシンガポール仕様であるF-5S。
F-5S

 その隣には先ほどのTA-4Sの完全体、、、、ではなく、F404エンジンを搭載して近代化されたTA-4SUです。
TA-4SU

 これは英BAC社が開発した攻撃機「ストライクマスター」です。これもかなりレア機体かと思います。
Strikemaster

 先ほど屋外で展示されていた「ハンター」は、屋内でも見学することができます。
Hunter_a

 いっぽうこちらは世界中の航空博物館にいるであろうジェット練習機T-33「シューティングスター」です。
T-33

 スカイホーク最後の1機は、単座型のA-4Sでした。塗装も迷彩ではなくグレー。でこぼこ二段キャノピーよりもすっきりしています。
A-4S

 お隣はフランス、シュド・アビアシオン社製のヘリコプター、「アルエットIII」です。
Alouette III

 英ブリストル社の地対空ミサイル「ブラッドハウンド」です。大きいですね。こうやって見ると、ミサイルも航空機の一種であると言ってしまっても過言ではないかも。
Bloodhound

 UH-1もどこにでもいますね。軍民問わず大ベストセラーのヘリコプターです。
UH-1

 これでぐるりと一周が完了です。天井からはセスナ172が吊るされていました。
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 このほかにも無人標的機などが展示されていました。

さてさて、ここまで展示機をざっと紹介してきましたが、このまま終わってしまうのも少し味気ないですよね。せっかくなので、シンガポール空軍がかつて100機以上を保有し、この博物館にも多数が展示されているスカイホークをもう少し詳しく見てみることにしませんか。それで今回の記事は終わりといたしましょう。

スカイホークを詳しく見てみる
 A-4スカイホークは核爆弾の搭載を主とした米海軍向けの艦上攻撃機として1950年代に開発された機体で、軽量で安価であることを目標として作られました。
 重量軽減のために艦上機でありながら主翼の折り畳み機構も有していません。また、大きな特徴として、主翼外板を左右一体の一枚構造としています。そのため攻撃機としては珍しい低翼配置となっていますが、降着装置を長くすることによって核爆弾の搭載を可能としています。
 この低翼かつ地上からのクリアランスの大きなランディングギアがスカイホークに他にはないユニークなシルエットを与えています。
 下の写真を見てもらえばスカイホークの脚の長さが伝わるでしょうか。展示されている機体によっては油圧が抜けてこの独特の姿勢が失われてしまっているものもありますが、本機はよく整備されています。
TA-4SU
 正面から見た姿です。すこし暗くて見づらいと思いますが、増槽を装備していても十分な地上とのクリアランスが取れていることに気づいてもらえるかと思います。
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 スカイホークはその軽量安価なこともあってか米国以外にも数多く輸出され、イスラエルやアルゼンチンでの活躍が知られています。
 また、米海軍のアグレッサー機としても用いられ、格闘戦ではF-14トムキャットにも引けを取らなかったといいます。
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 スカイホークに搭載されているエンジンは、A-4A型からC型までがJ65エンジンを、E型以降はJ52エンジンです。なお、上の写真はJ65エンジンです。

 シンガポール空軍は1970年代に中古のA-4Bを大量に購入、独自に改修を施し、A-4S(複座型はTA-4S)として採用しました。

 主な改修事項として、
・新しいアビオニクス収容のため機首を延長
・ハードポイントを3つから5つへ増設
・背部にADFを設置
・操縦席へ装甲板を追加
・ドラッグシュートの装備
・30mmADEN機関砲への換装
などが挙げられます。

 また、80年にはA-4Cを含む追加機を購入し、改修されたA-4CはA-4S-1/TA-4S-1と呼称されました。この機体はオリジナルの20mm機関砲を残すなど、A-4Sとは少し仕様が異なっていました。
 ちなみにスカイホークといえば電子装備を追加するために背中にこぶの付いている機体がよく知られていますが、シンガポールのスカイホークはA-4B/Cを基にしているため、こぶはありません。

 シンガポール仕様のスカイホークの大きな特徴として、複座型のキャノピーが二分割されており、それぞれが独立していることが挙げられます。
 せっかくなので、複座型と単座型を同じアングルで比較してみましょう。独特なキャノピー配置とともに、機首部分が大きく延長されていることが分かるかと思います。
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 なお、キャノピーの後ろに伸びているのはUHFアンテナです。

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 こんな風に二本ついています。その後ろの、黒いサドルみたいなものがシンガポールのスカイホークの特徴であるADFアンテナです。

 ちなみに機関砲は左右両側に1門ずつの計2門が装備されていますが、弾倉が干渉しないように左右の機関砲はずらして搭載されています。そのため、機体から飛び出ている銃身の長さが左右で異なっています。
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 エンジンの話に戻りますが、中古のJ65エンジンの老朽化に伴う事故が立て続けに起こったことから、1980年代に入りエンジンの換装の話が持ち上がります。そこでFA-18ホーネットに使用されたF404エンジンからアフターバーナーを除いたものが搭載されることになりました。これがA-4SU「スーパースカイホーク」です。
 エンジン推力自体はやや下がったものの、軽量かつターボファンエンジンとなったことで燃費が向上し、総合的な性能は向上しました。
 J65エンジンとF404エンジン搭載機との簡単な見分け方は、左側エアインテークにある補助空気取入口の有無です。下の画像では、主空気取入口にあるDANGERの注意書きの右下にあるものがそれです。これがあるので、この機体はF404装備のTA-4SUであることが分かります。
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 主翼も見てみましょう。下の画像は、屋外展示機を下から見たものです。ご覧のように、スカイホークの主翼は切り落としデルタ翼となっていますが、翼端は円く整形されています。先述のように主翼外板は左右一体の一枚構造となっています。ハードポイントは合計5つで、主脚は主翼内に完全には収まらず、カバーが主翼からはみ出しています。
 スカイホークは超音速飛行が要求されていなかったため、思い切って重量軽減を優先して空気抵抗の増加を忍んでいる部分がいくつか見られます。主脚カバーや、大きく突き出した空中給油プローブはその好例です。
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 もう一つの例として、下の画像のような翼端に多数設置されたボーテックスジェネレータも挙げられるでしょう。これは敢えて主翼上に渦を発生させて気流の剥離を防ぐものです。スカイホークは試験飛行中にショックストールによるウイングドロップに悩まされましたが、その際でも補助翼の効きを確保するために設置されたとのことです。
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 前縁スラットの様子も見学することができます。見にくいかもしれませんが、境界層フェンスも確認できます。
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 フラップはシンプルにスプリット式を採用しています。こういったところにも重量軽減の考え方が見られるということでしょうか。
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 横から見るとこのような感じです。
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 前脚です。前方向に持ち上がりながら収容されます。この方向であれば、故障時に風圧で脚が下りてくれることでしょう。
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 後ろ脚も故障時であっても風圧で降り、きちんとロックもかかるようになっているそうです。
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 基本的には主翼下に多数かつ大型の武装を装備する攻撃機には高翼配置が好まれるのですが、スカイホークは脚を長くするという発想の転換によってその問題をクリアしました。
 脚が長くなった分の重量増加よりも、低翼配置による重量軽減効果が上回ったということでしょう。
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 エアブレーキは胴体後部のこの位置です。シンガポールに空母はありませんが、アレスティングフックも残されています。
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 斜め後方からアレスティングフックを見てみましょう。このような単純な装置で空母に着艦できるというのだからスゴイですよね。
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 尾部です。方向舵は試験中に発生したバズ対策にタドポール式のものを採用しています。ボーテックスジェネレーターといい、この方向舵といい、スカイホークは根本的な対策というよりはスケジュール優先の対症療法が多めの印象です。
 エンジン排気口の下に小さな排気口のようなものがありますが、ここからドラッグシュートが展開されます。
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 というような感じでスカイホークを詳しく見てみました。個人的にはかなり好きな飛行機だったので、間近で見ることができてうれしかったです。なんというか、ちゃんとした目的を持って、そのために向かって設計された感じが好きなんですよね。

おわりに
 さて、今回の記事はいかがだったでしょうか。シンガポールはビジネスでも観光でも訪れる可能性のある国ですから、時間があったらこの博物館にも寄ってみてはいかがでしょうか。皆様のご感想、コメントや「私も行ったことあるよ~」的なご報告もお待ちしております。
 そうそう、この博物館にはお土産屋さんもあるのですが、なぜだかシンガポール空軍よりも中国空軍のグッズが多めで、結局なにも買わずに出てきてしまいました。。。

 次回の記事は、ベトナム、ホーチミン市内に展示されている軍用機を紹介しようと思っています。相変わらず不定期の更新ですが、引き続きよろしくお願いします。