WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

2022年04月

はじめに
 約1年前に一式陸攻の性能に関する記事を書きましたが、二四型と桜花搭載型である二四丁型の性能を入手したので補足記事として新たに投稿します。

一式陸攻二四型の性能
機体:一式陸上攻撃機二四型(1号機)
重量:12500kg
発動機:火星二五型
飛行性能:
高度       最高速度
(Alt.)      (Max. speed)
      0m   約209.0kt(387km/h)
1000m   約217.5kt(403km/h)
2000m   約228.5kt(422km/h)
2400m   約232.0kt(430km/h)
3000m   約231.0kt(428km/h)
4000m           約229.0kt(424km/h)
5000m   約237.0kt(439km/h)
5100m   約238.0kt(441km/h)
6000m   約234.5kt(433km/h)
7000m   約224.5kt(416km/h)
8000m   約211.0kt(391km/h)
実用上昇限度:8125m
絶対上昇限度:9400m

一式陸攻二四丁型の性能
機体:一式陸上攻撃機二四型(試製桜花装備)(95号機)
重量:14500kg
発動機:火星二五型
飛行性能:
高度       最高速度
(Alt.)      (Max. speed)
      0m   約186.0kt(345km/h)
1000m   約194.5kt(360km/h)
2000m   約204.5kt(379km/h)
2050m   約205.0kt(380km/h)
3000m   約202.0kt(374km/h)
4000m           約208.0kt(385km/h)
4550m   約214.0kt(396km/h)
5000m   約211.0kt(391km/h)
6000m   約201.5kt(373km/h)
7000m   約189.0kt(350km/h)
実用上昇限度:6280m
絶対上昇限度:7250m

補足説明
 上記データは、防衛研究所がオンライン上で公開している資料内にあるグラフから拾ったものですのであえて「約」という文字を付けています。ニ四丁型の実用上昇限度を、前回記事では7250mとしてしまいましたが、このように6280mが正解となりますので、ここで訂正いたします。

 おまけに、今回紹介した一式陸攻二四型第1号機と、過去に紹介した一式陸攻一三型第948号機および銀河一一型第187号機との速度性能を比較したグラフを作ってみました。
G4M速度比較
 一式陸攻二四型は、一三型に対してほぼ全高度帯で低速です。一三型は偵察状態なので重量は9500kgで、一方の二四型は12500kgなので、その重量差は3トンありますが、一三型がもし攻撃状態であればどちらも総重量は12500kgとなり、過去記事から最高速度の差もほとんどなくなるものと思われます。ということはつまり、二四型は防御能力の改善はあったものの、せっかくのエンジン馬力向上分をまったく速度性能向上に振り分けることができなかったということになります。また、銀河が一式陸攻とは比べ物にならないほど優速であることも分かります。

ソース
『空技廠機密第18号 昭和20年1月2日 試製櫻花実験概報(試製櫻花装備陸攻空中性能測定成績)提出』(『航空関係軍備 3/3』より)
請求記号 ⑤航空部隊-航空本部-75

はじめに
 みなさん、こんにちは。今回の記事は、初心に立ち返って考察シリーズです。飛燕一型丁の最高速度について考察してみたいと思います。
 飛燕というと、試作機が予想以上の好成績を残したために量産化が決定されたものの、その後の相次ぐ改修によって性能が低下していったとされています。それでは、サブタイプのうち最も多く生産された丁型の最高速度は、実際のところどれほど低下してしまったのでしょうか?今回はこの疑問について考えてみようと思います。

飛燕一型丁の二種類の最高速度
 そもそも丁型の最高速度としては二種類のものが知られています;ひとつは①560km/h@5000mというもの。もうひとつは②580km/h@5000mというものです。

①の数字は、1945年9月付の川崎航空機が占領軍に提出した資料に見ることができます。
yvo9c7W
 表中には「キ61」としか書かれていませんが、ハ40エンジンを搭載し、全備重量は3470kgで武装は13mm×2、20mm×2となっており、丁型の数値であると推測できます。
 一方で、②の数値は飛燕の設計者である土井武夫氏の著書『飛行機設計50年の回想』の表中に見られる数字です。一応どちらも信頼できそうな資料からのデータだと言えそうですが、どちらの方が正しいのでしょうか。
 正直に言ってしまえば、丁型の性能試験報告書が残っていない以上、どちらが正しいのかというはっきりとした結論を下すのは不可能です。なので、以下の考察は全て私の想像ということになります。そういう意味で言えば大して意義のない議論ということになりますが、それでも読んでいただけるというのであれば、どうかお付き合いください。

アプローチ1:試作機の性能から
 さて、冒頭に飛燕の試作機は予想以上の成績を残したと書きましたが、実際にはどのような性能だったのでしょうか。幸いにも、防衛研究所に所蔵されている『「キ六十一」操縦法』に、おそらく審査時のものと思われるデータが記されており、過去記事でも紹介しています。
 これによると、最高速度は高度6000mで591km/hですが、全開高度は4760mでその際の速度は588km/hとなっています。なお、この時の試験条件として飛揚重量は試作第1号機の標準状態である2950kgという注が付されています。また、川崎航空機側の資料でも最高速度は高度4760mで590km/hとしています。
 ということは、590km/h前後を計測した機体と、丁型との間には520kgもの重量差があったということになります。もし同一の機体でこれほどの重量差があった場合、最高速度にはどれほどの影響があるのでしょうか?

重量増加による速度への影響試算
 そこで、590km/hを計測した機体はそのままで、重量を2950kgから3470kgに仮想的に増やした場合の最高速を推算してみようと思います。
 まずは過去記事で紹介したようなデータを集めます。
 そのために、前述の『飛行機設計50年の回想』から数値をいくつか拝借します。例えば、キ61の飛行試験による(Cd*S)/ηは0.46、ηを0.85としてCd*Sは0.39としています。ただ、厳密にいうと0.46*0.85=0.391なので、Cd=0.391/20=0.01955を得ることが出来ました。
そのうえで、高度4800mで最高速度590km/hとして必要馬力を計算してみましたが、なぜか上手く釣り合いません。
Pr=(ρ/150)*Cd*S*v^3
 =(0.076701/150)*0.01955*20*163.89^3
 =880
P=880/0.85=1035
となり、全開高度4800mでの軸馬力が1035馬力になってしまいました。ハ40はラム圧なしで1100馬力@4200mのスペック性能なので、本来であれば全開高度が4800mであれば1100馬力+αでなければなりません。

もしやと思って、高度を4200mにして計算しなおしてみたら、
Pr=(ρ/150)*Cd*S*v^3
 =(0.08178/150)*0.01955*20*163.89^3
 =938
P=938/0.85=1104
となり、ぴったり1100馬力となりました。土井氏の計算に誤りがあったのか私の計算に使用したデータに根本的な誤りがあるのかは分かりませんが、こうなった以上、以降の計算は高度4200mの1100馬力で590km/hを出したことにして続けていきます。

『飛行機設計50年の回想』には風洞試験よりe=0.87としていたので、それをそのままパクります。これでCdpが求められるようになったので計算すると、
Pr=(Cdp*S/150)*ρ*v^3+(2/(75*π*e))*((W/b)^2)*(1/ρv)
Cdp=0.018563
を得ることができました。

続いて、W=3470にして計算してみます。
重量が増えた際の水平速度への影響は、迎角の増大による空気抵抗の増加と、揚力の増大による誘導抵抗の増加の二つに分けられます。
迎角の増大分は、飛燕の風洞試験データがないので何とも言えませんが、W=2950のときのCl=0.13429、W=3470のときのCl=0.15797なので、D4Y3の性能計算書などから
とりあえず適当にCdp=0.019000にしてみると、最高速度は581.5km/hとなりました。
もう少し悪めにCdp=0.019500にして計算すると、今度は576.4km/hとなりました。

すなわち、全く同一の外形を持つ飛燕の重量が2950kgから3470kgに増えた場合の速度低下は、10~15km/hくらいだと推測できます。(※ただし、高度4200mの軸馬力1100馬力で590km/hを発揮したとした場合)

外形変化による速度低下
 上で行った計算は、あくまで外形が同一の場合の話です。ところが、飛燕一型の試作機と一型丁とでは、様々な外形変化が考えられます。
 第一は、尾輪が引込式か固定式かという点です。一型乙の途中までは飛燕の尾輪は引込式でしたが、その後は固定式となっています。当然その分の空気抵抗の増加が見込まれます。
 第二は、機首に20mm機関砲を搭載したことによる、機首の延長および砲口の突出です。これによっても空気抵抗の増加が予測されます。
 また、確実ではない要素として、試作機は無塗装でしたが丁型では迷彩塗装が実施されている可能性があります。さらに、試作機には翼内武装が取り付けられていなかった可能性も存在しています。
 愛知航空機のとある資料によると、尾輪の固定による速度低下は3~4ノット、迷彩による速度低下は4ノットとしています。以上のことから、外形変化による空気抵抗の増加のために最高速度が15km/h 前後低下したとしても不思議ではありません。

 というわけで、重量増加と外形変化による合わせ技で約30km/hの速度低下があったと推測すると、①の560km/h@5000mの方が現実味のある数字かと思います。少なくとも②のような10km/hの速度低下では済まないように思われます。

アプローチ2:懸吊架装備機の性能から
 ちなみに、防衛研究所に所蔵されている木村技術中佐のノートには、過去記事のコメント欄でも触れましたが、懸吊架ありの飛燕で536km/h@4430mというデータも残されています。
以下原文を載せます。

 19年4月28日
 キ61-I 4000号附近(福生ニ於テ)
 G=3450kg
 Vmax=536k/4430m 530k/6000m
 t=8'20"/5000m
 尾輪固定
 落tank懸吊架有ス
 防弾トmauserノタメG増加セリ

 なお、「4000号附近」の「号」の部分は読み取りが難しく、もしかしたら別の文字かもしれません。"mauser"(マウザー)の表記が気になりますが、一型丁の機体番号がちょうど4001から始まること、重量が3450kgとなっていることから、単純に20mm機関砲の総称としてマウザーの語を使ったと考えて、この機体は一型丁を指すのではないかと考えています。
 加えて、もしこの機体が一型丙であったとしても、丁型と同等の重量かつ尾輪が固定式となっていることから、両者に性能差はほとんどないのではと思います。

 統一型落下タンク懸吊架による速度低下は、『「歴史群像」太平洋戦史シリーズ52 一式戦闘機「隼」』によると、第64戦隊の整備関係者の日誌において約25キロとの記述があるそうです。単純計算で536+25=561ですから、落下タンク懸吊架の無い飛燕一型丁の最高速度は、やはり560km/h程度と考えて良いのではないでしょうか。

まとめ
 ということで、今回の記事のまとめです。三式戦闘機一型丁の最高速度は二種類のものが知られていますが、一型試作機の性能を基に考えてみても、懸吊架付きの機体の性能を基に考えてみても、560km/h@5000m程度であったと考えるのが妥当かと思います。おそらく580km/hの数字は誤記・誤植の類なのではないでしょうか。(ただしこれらの結論は、あくまで私個人の推測に過ぎないということには注意が必要です。)

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。私は小さいころから算数が大嫌いで、なるべく避けて今まで生きてきた生粋の文系人間です。しかしながら、この記事内でも計算式が多く、やはりもっとしっかり勉強しておけばと思うことが多くなってきました。正直私の頭脳では、これくらいが限界です。それでも、分からないなりに今後もいろいろと考えていってみたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 皆様のご意見やご感想、疑問、反論、なんでもお待ちしております。ぜひコメント欄からご記入いただければ幸いです。ありがとうございました。

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