はじめに
みなさま、ご無沙汰しております。いかがお過ごしでしょうか。私は新たな資料が全然手に入らず、リサーチが全く進んでおりません。
ということで今回の記事は、資料が手に入らないなかで最近いろいろと試してみて遊んでいることを紹介したいと思います。
最高速度の推算
このブログといえば二次大戦中の航空機の性能を追い求めています。そして性能の代表的なものが最高速度だと言えます。実測値の資料がなかなか無いならば、計算で推測してしまうのが早いのですが、実際問題として、最高速度の推算にはどのようなデータが必要なのでしょうか?現状手に入る資料のみで推算できるのでしょうか?
ブログを始めたころは航空力学のド素人だった私ですが、独学で少しずつ勉強したので良かったらちょっとだけ聞いてください。(間違っていたら遠慮なく教えてください。)
最高速度の計算式
この記事の趣旨ではないので一切の説明は省きますが、飛行機の最高(最小)速度は必要馬力曲線と利用馬力曲線の接点となります。
必要馬力(Pr)の計算式は、
Pr=ρ/150*CdSv^3
で表すことができますが、これを有害抗力と誘導抗力とに分けると
Pr=(CdpminS/150)ρv^3+(2/75πe)(W/b)^2(1/ρv)
と表されます。
いっぽう利用馬力(Pa)は、
Pa=Pη
となります。
すなわち、Pr=Paとなったところが最高(最小)速度となるのです。
Cd:抗力係数
Cdpmin:最小有害抗力係数
P:軸馬力(ps)
S:翼面積(m^2)
W:重量(kg)
b:翼幅(m)
e:飛行機効率
v:速度(m/s)
η:プロペラ効率
ρ:空気密度(kg-s^2/m^4)
ですから、最高速度を求めるにはこれらのデータが必要となります。
すなわち、具体的には
①機体の寸法
②空気密度表
③エンジンの高度別の馬力データ
④風洞実験成績データ
⑤プロペラの実験データ
が必要となってきます。
①と②は簡単に利用できます。③はまだ手に入るほうですが、④や⑤は入手するのは略不可能と思ってよいかと思います。
というわけで、性能の推算は不可能なようです、、、と終わってしまうのはさみしいですから、なんとかできることはないでしょうか。
性能推算と実測値の比較
実は、奥宮・堀越の『零戦』には、一部の機体のCd値と最高速度時のプロペラ効率などが載っています。たとえばキ46-Iの最高速度は292kt@4070mとし、馬力は920×2馬力。そのときのCdは0.0232、プロペラ効率は0.753としています。
これを利用しない手はありません。また、幸いにしてキ46-Iの高度別の最高速度データも残されていますから、各高度の最高速度を計算し、実測値との比較を行ってみましょう。
まず、各高度別の馬力性能が必要となります。残念ながらハ26-Iの馬力グラフを私は見たことがありませんが、幸い同系統の瑞星12/13型の取扱参考書内にグラフがありますので、これを手直しして利用します。詳しくは省略しますが、手直しした結果、ハ26-Iの高度4100mでの馬力を914馬力とします。さらに、各高度での馬力も求めておきます。
続いて、Cdpminを求めます。これは最高速度時のCdから誘導抵抗Cdiを引くことによって求めます。
みなさま、ご無沙汰しております。いかがお過ごしでしょうか。私は新たな資料が全然手に入らず、リサーチが全く進んでおりません。
ということで今回の記事は、資料が手に入らないなかで最近いろいろと試してみて遊んでいることを紹介したいと思います。
最高速度の推算
このブログといえば二次大戦中の航空機の性能を追い求めています。そして性能の代表的なものが最高速度だと言えます。実測値の資料がなかなか無いならば、計算で推測してしまうのが早いのですが、実際問題として、最高速度の推算にはどのようなデータが必要なのでしょうか?現状手に入る資料のみで推算できるのでしょうか?
ブログを始めたころは航空力学のド素人だった私ですが、独学で少しずつ勉強したので良かったらちょっとだけ聞いてください。(間違っていたら遠慮なく教えてください。)
最高速度の計算式
この記事の趣旨ではないので一切の説明は省きますが、飛行機の最高(最小)速度は必要馬力曲線と利用馬力曲線の接点となります。
必要馬力(Pr)の計算式は、
Pr=ρ/150*CdSv^3
で表すことができますが、これを有害抗力と誘導抗力とに分けると
Pr=(CdpminS/150)ρv^3+(2/75πe)(W/b)^2(1/ρv)
と表されます。
いっぽう利用馬力(Pa)は、
Pa=Pη
となります。
すなわち、Pr=Paとなったところが最高(最小)速度となるのです。
Cd:抗力係数
Cdpmin:最小有害抗力係数
P:軸馬力(ps)
S:翼面積(m^2)
W:重量(kg)
b:翼幅(m)
e:飛行機効率
v:速度(m/s)
η:プロペラ効率
ρ:空気密度(kg-s^2/m^4)
ですから、最高速度を求めるにはこれらのデータが必要となります。
すなわち、具体的には
①機体の寸法
②空気密度表
③エンジンの高度別の馬力データ
④風洞実験成績データ
⑤プロペラの実験データ
が必要となってきます。
①と②は簡単に利用できます。③はまだ手に入るほうですが、④や⑤は入手するのは略不可能と思ってよいかと思います。
というわけで、性能の推算は不可能なようです、、、と終わってしまうのはさみしいですから、なんとかできることはないでしょうか。
性能推算と実測値の比較
実は、奥宮・堀越の『零戦』には、一部の機体のCd値と最高速度時のプロペラ効率などが載っています。たとえばキ46-Iの最高速度は292kt@4070mとし、馬力は920×2馬力。そのときのCdは0.0232、プロペラ効率は0.753としています。
これを利用しない手はありません。また、幸いにしてキ46-Iの高度別の最高速度データも残されていますから、各高度の最高速度を計算し、実測値との比較を行ってみましょう。
まず、各高度別の馬力性能が必要となります。残念ながらハ26-Iの馬力グラフを私は見たことがありませんが、幸い同系統の瑞星12/13型の取扱参考書内にグラフがありますので、これを手直しして利用します。詳しくは省略しますが、手直しした結果、ハ26-Iの高度4100mでの馬力を914馬力とします。さらに、各高度での馬力も求めておきます。
続いて、Cdpminを求めます。これは最高速度時のCdから誘導抵抗Cdiを引くことによって求めます。
Cdi=Cl^2/πAe
(Cl:揚力係数、A:アスペクト比)
ですから、飛行機効率を適当にe=0.85として計算し、
Cdpmin=0.0217を得ました。
プロペラ効率は馬力を920馬力から914馬力に変えたので、再計算してη=0.755とします。
本来であればプロペラ効率ηは飛行速度の変化に応じて変わりますが、最高速度時には極端に大きくは変わらないはずので今回は全高度におけるプロペラ効率はη=0.755で統一します。
また、重量はW=4820kg、翼面積S=32.0m^2、翼幅b=14.7mとします。
さて、ここまでデータをそろえたところで1000mごとの最高速度を上記の必要馬力と利用馬力の式に代入して計算し、実測値と比較をしてみると、以下のグラフのようになりました。
黒の実線が計算値を表し、赤の点線が実測値を表します。いかがでしょう。かなりいい線いっているのではないでしょうか。
というわけで、文中で5つ挙げた必要なデータのうち、④と⑤についての詳細なデータが分からなくとも、最悪最高速度とその時の高度、そして最高速度時のCd値もしくはCdpmin値が分かれば、なんとなく計算することはできそうなことがわかりました。
この調子で、同様に『零戦』内に記載のあるA6M3/A6M5のCdmin=0.0204を用いて実測値との比較を行ってみます。
キ46のときと同様に、黒の実線が計算値を表し、赤の点線が実測値を表します。最高速度から離れるにつれ、どうしてもズレが大きくなってしまってはいますが、極端な乖離はないかと思います。
ところが、続けてこのCdmin=0.0204を使ってA6M2の最高速度を計算してみたところ、以下のような結果になりました。
全開高度以下の性能はピッタリだったのですが、それ以上の高度でのズレが許容できないほど大きくなってしまいました。
この原因として考えられるのは、全開高度以上でのプロペラ効率が著しく低下しているか、もしくは全開高度以上でのエンジン軸馬力が実際は性能表よりも低下しているかのどちらかだと思われます。が、その答えを知る術は残念ながら今のところありません。
最高速度計算まとめ
といった感じで、詳しいデータが揃わなくても、ある程度のところまで最高速度の計算はできることはわかりました。しかしながら、A6M2の例をみればわかるように、実測値と上手く合わないこともあります。その原因を考えるのも楽しいのですが、現状計算パラメータをうまく修正する方法は分かりません。
また、今回はたまたま『零戦』内にCd値の記載があったからよかったものの、三菱以外の機体の風洞試験データがどこまで残っているのかも未知数です。最近はコンピュータ・シミュレーションで大戦中の機体のCd値を求めることもできるのでしょうか?もしそうであればかなり可能性は広がりそうな感じがします。
加えて、大戦中のプロペラのデータというものが一体どの程度残っているのかということについても気になっています。直径やピッチ角は取説に書いてあることが多いのですが、翼型は?幅は?厚さは?といったところはほとんど知られていないのではないかと思います。ひとつ知れば100が分からなくなるといった感じで、奥の深さを思い知らされます。。。
というわけで今回の記事は「性能データが揃わない最近の自分が試していること」でした。特に中身のある話ではなかったかもしれませんが、最後までお読みいただきましてありがとうございました。
プロペラ効率は馬力を920馬力から914馬力に変えたので、再計算してη=0.755とします。
本来であればプロペラ効率ηは飛行速度の変化に応じて変わりますが、最高速度時には極端に大きくは変わらないはずので今回は全高度におけるプロペラ効率はη=0.755で統一します。
また、重量はW=4820kg、翼面積S=32.0m^2、翼幅b=14.7mとします。
さて、ここまでデータをそろえたところで1000mごとの最高速度を上記の必要馬力と利用馬力の式に代入して計算し、実測値と比較をしてみると、以下のグラフのようになりました。
黒の実線が計算値を表し、赤の点線が実測値を表します。いかがでしょう。かなりいい線いっているのではないでしょうか。
というわけで、文中で5つ挙げた必要なデータのうち、④と⑤についての詳細なデータが分からなくとも、最悪最高速度とその時の高度、そして最高速度時のCd値もしくはCdpmin値が分かれば、なんとなく計算することはできそうなことがわかりました。
この調子で、同様に『零戦』内に記載のあるA6M3/A6M5のCdmin=0.0204を用いて実測値との比較を行ってみます。
キ46のときと同様に、黒の実線が計算値を表し、赤の点線が実測値を表します。最高速度から離れるにつれ、どうしてもズレが大きくなってしまってはいますが、極端な乖離はないかと思います。
ところが、続けてこのCdmin=0.0204を使ってA6M2の最高速度を計算してみたところ、以下のような結果になりました。
全開高度以下の性能はピッタリだったのですが、それ以上の高度でのズレが許容できないほど大きくなってしまいました。
この原因として考えられるのは、全開高度以上でのプロペラ効率が著しく低下しているか、もしくは全開高度以上でのエンジン軸馬力が実際は性能表よりも低下しているかのどちらかだと思われます。が、その答えを知る術は残念ながら今のところありません。
最高速度計算まとめ
といった感じで、詳しいデータが揃わなくても、ある程度のところまで最高速度の計算はできることはわかりました。しかしながら、A6M2の例をみればわかるように、実測値と上手く合わないこともあります。その原因を考えるのも楽しいのですが、現状計算パラメータをうまく修正する方法は分かりません。
また、今回はたまたま『零戦』内にCd値の記載があったからよかったものの、三菱以外の機体の風洞試験データがどこまで残っているのかも未知数です。最近はコンピュータ・シミュレーションで大戦中の機体のCd値を求めることもできるのでしょうか?もしそうであればかなり可能性は広がりそうな感じがします。
加えて、大戦中のプロペラのデータというものが一体どの程度残っているのかということについても気になっています。直径やピッチ角は取説に書いてあることが多いのですが、翼型は?幅は?厚さは?といったところはほとんど知られていないのではないかと思います。ひとつ知れば100が分からなくなるといった感じで、奥の深さを思い知らされます。。。
というわけで今回の記事は「性能データが揃わない最近の自分が試していること」でした。特に中身のある話ではなかったかもしれませんが、最後までお読みいただきましてありがとうございました。