はじめに
 みなさん、こんにちは。もう6月も終わりに近づいてきましたが、梅雨なんだか夏なんだかよくわからない日々が続いていますね。皆さんも熱中症に十分気を付けて日々をお過ごしください。
 さて、今回の記事では「『新鋭機ニツイテ』―ある海軍学生のノートより」と題しまして、偶然手に入れることができたとある海軍学生の航空術の授業のノートから「新鋭機ニツイテ」という項目を抜粋して皆さんと一緒に見ていこうかなと思っています。
 もしかしたら記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、過去記事『〈考察⑧-2〉紫電の性能について』で一度このノートに触れています。しかし今回は実際のノートのスキャンを用いながら進めていこうと思っています。

「新鋭機ニツイテ」
 この授業はおそらく1944年の11月に行われたものと思われ、零戦、一式陸攻、雷電、紫電、紫電改、彩雲、天山、銀河そして烈風について、その特徴や簡単な諸元を解説したものと推察されます。中には誤りと思われる記述も散見されますが、当時の貴重な情報がありのまま残されているという点で後世の我々にとってとても興味深いものとなっています。
 なお、以下に添付するスキャン画像は記事の構成上一部段組みを直していますが、基本的には「新鋭機ニツイテ」の全文を皆さんと共有しています。それでは早速零戦から見ていくことにしましょう。

零戦
1零戦

 まず最初に「0戦」はA6M1では瑞星を、M2以降は栄を積んでいること、それは振動が原因であることが述べられています。(確か振動問題はプロペラの翅数が問題だったような?)
 さらにその下ではM2~M5の違いが書かれていますが、M3とM4の説明が22型と32型の説明と混同されているようです。その性能はM3が280ノット、M5が300~305ノットとしています。M5は妥当ですがM3が280ノットはちょっと物足りないかな?
 その下では「M5ごく最近は防御力大となる」として、イラスト付きで53型の説明をしています。すなわち栄31型の搭載、胴体下の爆弾懸吊架、防弾装備の追加や武装強化などです。ただし53型は結局量産されることはなく、これらの性能強化は52乙型以降で一部が実用化されることになります。

一式陸攻
2一式陸攻
 お次は一式陸攻です。さすがに各種日付や諸元は正確です。ただし最高速度250~260ノットはやや過剰で、実際のG4M2は240ノット前後であったと思われます。図入りでインテグラルタンクの説明をしているのは非常に興味深く、「火災を起こし易い」ということではっきりと「欠点」と断じられ、それ故にG4M3が開発されていることがよく分かります。

雷電
3雷電
 続いてみんな大好き雷電です。イラストは雷電の特徴をよく捉えていますが、実機の写真なり図面なりを示しながらの授業だったのか、教官の絵が上手かったのかは分かりません。J2M1の最高速度310ノット・上昇時間6000mまで6分16秒という数字やJ2M2の自重2348kg・全備3210kgは一桁レベルで海軍出所の一次資料と同じなので少しびっくりしました。J2M2の最高速度がロケット排出管で320ノット@6000mというのも非常に妥当なところに思われます。(武装が12mm二門になっているのは20mmの誤記かと思います。)
 しかしながら雷電自体に対する評価は非常に辛辣で、視界が悪いこと、速度が出ないこと、空戦性能が悪いことを欠点に挙げ「失敗した機種なり」とされています。当時の海軍の持っていた雷電に対する評価がよく分かります。一方で排気タービン装備のJ2M4に対する期待も少し伺えます。

紫電
4紫電
 紫電に関しては、強風からの発展形であること、脚の伸縮機能が欠点、空戦フラップが特徴であることが要領よくまとめられています。一番の注目ポイントはその速度性能で、一速305ノット・二速325ノットとしています。これは今までどの出版物にも出てきていない数字かと思いますが、過去何度か本ブログで触れているように誉12型装備の機体であれば決してあり得なくない数字だと思っています。できれば海軍か川西作成の一次資料にこの数字を見つけることができればと思っています。上昇力が6000mまで5分40秒というのは雷電なみの良さなのでそこについては少し疑問です。いずれにしても海軍が考えるこの時期(44年11月頃)の紫電の性能はこれくらいだったということかと思います。

紫電改
5紫電改
 紫電の次は当然紫電改です。紫電からの改造点として「①脚小になる」「②胴体内槽を大にした(桁が貫通しないため)」「③20mmを翼内に装備せり」とあり、更に胴体に13mm二門装備や防弾タンク化にも触れています。最高速度は一速が310ノット・二速が329ノットとし、6000mまでの上昇力は紫電と同じ5分40秒としています。紫電改に対するコメントは「局地戦闘機としては成功せるものなり。雷電より優秀」と、期待が感じられます。

彩雲
6彩雲
 実はすべての機体の中で一番文量が多かったのが彩雲でした。本機に関してはなぜか全長や重量が手持ちの取説とはちょっとだけ違います。プロペラがVDM4翅では振動が多くハミルトン・スタンダードの3翅に変更されたこともしっかりと説明されています。個人的には最高速度の項がとっても興味深くて、基本330ノットとしながらも風防改造型は342ノットとしています。そんな話聞いたことないですよね。
 ほかにも揚力係数のグラフを使って前縁スラットの説明をしていたり、外板を厚くして縦通材を減らす彩雲独特な構造を分かりやすくまとめています。

天山
7天山
 一転して天山の説明はシンプルです。最高速度は二速で魚雷装備時は255ノット、なければ280ノットとのことです。確かに海軍一次資料でも天山11型の最高速度は二速で255ノットであることが確認できます。下の方に書いてあるように燃料タンク防弾化の話も進められていたようですが、流星の生産が始まると天山の価値は急速に下がってしまい、結局実施はされなかったようです。

銀河
8銀河
 「何でもやれる飛行機を作らんとして」開発されたのがP1Y1銀河だそうです。乗員は3名で「中攻は7名にて被害多」かったことにも触れられています。性能の3000mで305ノットというのはちょっと怪しめで、別の海軍の一次資料からは2900mで279ノット・5900mで300ノットというデータを見つけることができます。

烈風
9烈風
 ということで最後は烈風です。零戦を大きくしたものという認識のようで、A7M2は「金星を18シリンダーにしたものを積む」と書かれ、ハ43という名称は出てきません。斜め銃装備のA7M3-Jにも触れられています。毎回ですがイラストも特徴をよく捉えていますね。

まとめ
 以上が「新鋭機ニツイテ」の全文になります。いかがだったでしょうか。色々と面白い記述やデータがあったことと思いますし、色々と想像が膨らむことと思います。特に性能面に興味がある自分としては紫電や彩雲の速度がとっても気になっています。
 みなさんもご承知とは思いますが、このノートだけで何かを判断するのは非常に危険です。ですが主となる議論の補足資料としては十分に価値のあるものになるのではないでしょうか。

 今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。このブログを訪れてくださる方々が沢山いるにも関わらずなかなか更新できずに申し訳ありません。毎週とはいかないかと思いますが、これからも少なくとも月に1回は更新していきたいと思っていますので今後ともよろしくお願いいたします。
 よろしければ皆様のご意見やご感想をお聞かせいただけると幸いです。ぜひぜひコメントお待ちしております。

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