WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

2021年04月

「日本の航空発動機について調べたい」と思っても、wikipediaをはじめネット上にある情報は間違っていたり古かったりしてなかなか正確な情報が得づらいように思います。

だったら自分でまとめてしまえば良いじゃないかと思い、以下のようにGoogleのスプレッドシートを作成しました。思いっきり作成途中ですが、リンクを貼っておきます。地道に更新していこうと思います。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1-sdBUJIxKHcDvH3tNYwHa3mN64BLQBEfA0218Q44W9E/edit?usp=sharing

ちなみに誰でも編集可能にしていますので、もしお時間があれば編集のご協力をお願いできませんでしょうか?
情報の更新だけでなく、レイアウトや必要な情報の追加なども要望があれば教えてください。
また、セル毎にコメントすることも可能ですので内容に疑義等あればお気軽にお尋ねください。もちろんディスカッションも可能です。

どうぞよろしくお願いいたします。

ご無沙汰しております。先日(とは言っても結構前ですが)愛媛県愛南町にある紫電改展示館に行ってまいりましたので、今回はその紹介をしたいと思います。

紫電改展示館とは?
 この展示館は、愛媛県の最南端である愛南町に位置しています。ここでは展示館の南西にある久良湾に不時着水し海中に沈んでいた紫電改を1979年に引き揚げ、最小限の修復を施したうえで展示しています。国内で見られる紫電改としては唯一のものです。
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愛南町ホームページより

アクセス
 アクセスに関しては、はっきり言ってこの展示館へ行くのは大変です。公共交通機関で行くとなれば、JR宇和島駅からは直線距離で約30km離れており、宿毛駅からも15kmの距離がありますので、そこからバスまたはタクシーで行くことになります。個人的に一番楽だと思うのは、レンタカーを借りてしまうことです。私は松山でレンタカーを借りて海岸線をドライブしながら行きましたが、道中では宇和島城などの名所や美味しい海産物などのグルメを楽しむことが出来るはずです。もちろん昨今の状況を鑑みて、もし訪れるのであれば感染対策を万全にし、各自治体の出している指針に従って行動する必要があります。


展示館内部
 なんと、本展示館は無料で入館することができます。しっかりと手指消毒と検温を行った上で中へと進みます。
 展示館内部は紫電改を中心とし、様々な付随する資料がこれを囲むような構成になっています。また、二階建てではないのですが中二階のような部分があり、少し高い視点から紫電改の全体を見ることができるようになっています。
N1K2-J16..9
 写真を見て頂くと分かるように、紫電改の前には6名のパイロットの写真と無数の折り鶴が飾られています。この6名は、この紫電改が不時着した1945年7月24日の豊後水道上空での空戦で未帰還となった第343海軍航空隊の搭乗員たちです。この機体を操縦していたのは誰だったのかはっきりとは分かっていませんが、積極的に調べる必要もないかと思います。これは6名の搭乗員すべての慰霊の場なのです。
 そして、決して忘れてはならないのは、この日の紫電改との空戦で米戦闘機パイロットも3名が戦死しているということです。彼らも含めた9人の英霊への慰霊の気持ちを持って訪れるべきだと思います。
 この施設は通常の航空発物館とは異なり、追悼と平和学習の場です。館内の雰囲気も当然異なりますので、しっかりとそのことを認識したうえで見学しましょう。

機体のクローズアップ
 それでは紫電改を詳しく見ていくことにしましょう。そもそも紫電改とは海軍の局地戦闘機で、大戦末期に戦列に加わりました。大戦後半の時点で既に時代遅れの感があった零戦の「栄」エンジンの約2倍のエンジン馬力を持つ「誉」エンジンを搭載し、本土に襲来する米軍の新鋭戦闘機と互角に渡り合う資質を備えていました。

【機首】
N1K2-J機首
 早速、機首から見ていきましょう。本機はご遺族の希望で、なるべく当時のままの姿を残しているとのことで、最低限の修復しかなされていません。
 プロペラは先端のみが曲がっていますが、これは適切な姿勢で不時着水できたことを示しています。もし海面に激突していたならば、こんな風にはなり得ません。
 奥には誉エンジンが見えています。紫電改に搭載された誉21型エンジンは、離昇出力で2000馬力を発揮できるものでしたが、不具合が多く実際の運用では1800馬力相当へ運転制限が課されていました。この問題の解決のための努力は重ねられていましたが、運転制限はおそらく終戦まで続けられていたのではないかと思います。
 紫電改の機首は、陸軍の疾風と比較すると面長な印象です。紫電改は気化器用のインテークとオイルクーラー用のインテークをそれぞれエンジンカウルの上下に備え、機首ライン全体で見ると余計な出っ張りが出ないようにまとめられています。一方で、下記のイラストのように、疾風の機首は誉エンジンの直径に合わせてコンパクトにまとめられている一方で、オイルクーラー用の空気取入口を下部に出っ張る形で取り付けています。
airintakeKI84
 ここではこの設計の良し悪しに深入りはしませんが、もともと火星エンジンを搭載していた水上戦闘機「強風」から派生した紫電改のほうが、設計の自由度が少なく窮屈な印象です。例えば滑油冷却器を大型にする改修をひとつとっても、紫電改は空気取入口の形状を変えたりぎこちなく開口部を増やしたりしているようですが、疾風はシンプルに下部に突き出した部分が大きくなっただけです。
N1K2-J排気
 排出管については、ロケット効果および消炎効果を期待して単排気管となっています。この画像で見えているのは6本ですが、主翼の下側にもう1本隠れていますので、都合片側7本あり、合計で14本です。誉は18気筒ですが、下側の排出管は3気筒で1本となっているので、これで正しいのです。
 機首側面を少し窪ませてそこに排出管を並べるというのは、そこはかとなくFw190を想起させます。紫電11型や試作機ではこのような配置ではありませんでしたから、もしかしたら何らかの影響を受けたのかもしれません。

【胴体】
N1K2-J胴体
 紫電改の胴体は、紫電と比べるとかなりスリムになったものの、大きなフィレットのせいでどっしりとした印象を与えます。大抵どの飛行機にも「格好良い角度」と「格好悪い角度」がありますが、紫電改の「格好悪い角度」はおそらく斜め後方でしょう。
 ところで、フィレットに長方形の穴が見えますが、あれは搭乗する時に足をかけるところです。
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 長い間海中に没していたために、外表面を近くで見ると穴だらけです。気になったのが、穴だらけのオリジナルの外板よりも修復された部分の方がベコベコなのはなぜなんでしょう?
N1K2-J風防
 操縦席周辺です。風防の正面ガラスは防弾ガラスになっていました。開戦当初、日本海軍機は基本的に無防弾でしたが、紫電改は防弾ガラスを装備し、燃料タンクもゴムに覆われた自動防漏式となっています。風防の後ろにはアンテナマストが立っています。紫電改の登場したころになると、漸く日本海軍でも無線電話機がかなり実用的なレベルになっていたようです。
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 因みに、ここではその燃料タンクの実物を見ることができます。かなり珍しいのではないでしょうか。

【主翼】
N1K2-J主翼
 紫電改の主翼は、平面形は一般的なテーパー翼ですが、断面形はいわゆる層流翼を採用しています。基本的には紫電の主翼を引き継いでいますが、細部で少し改良したものを採用している可能性があります。
 主翼内に20mm機銃を各翼2門ずつ装備し、当時としては標準以上の火力を備えています。給弾方式はベルト式であり、主翼に余計なバルジを設けることなく装弾数を増加させることができます。
 補助翼は日本機に共通した細長いのものを持ち低速時の効きは良さそうですが、サーボタブもなく高速時は非常に重くなったものと推測できます。フラップはファウラー式で、有名な自動空戦フラップを備えていました。これは自機の速度と荷重を検知して自動でフラップを最適な角度で展開するというもので、これによって翼面荷重の増大にも関わらず良好な格闘性能を維持することが可能となっています。
N1K2-J主翼下面
 主翼下面には、空薬莢の排出口や爆弾の懸吊関係の装置が並んでいます。余計な空気抵抗を増やさないよう、上手く設計されているように感じられます。主脚はスタンダードな内側に引き込まれる方式を採用しています。紫電は中翼配置だったため複雑な伸縮機能を有していましたが、紫電改は低翼に改設計されたために地面との距離が縮まり脚の伸縮機能は不要となりました。

【尾翼】
N1K2-J垂直尾翼
 尾翼は羽布部分は失われており、骨組みがよく分かります。紫電改は初期型と後期型で垂直尾翼の面積が異なっています。この機体は面積が小さい方なので、後期生産型となります。
 強風や紫電の頃は、方向舵は下端まで達していなかったのですが、紫電改では改良されて方向舵面積が増加しています。こういったところでも操縦性の向上が図られています。

N1K2-J水平尾翼
 水平尾翼も、垂直尾翼同様に羽布部分が失われています。水平尾翼にも垂直尾翼にもトリムタブがついています。尾翼部分はオーソドックスな構造です。

【全体】
N1K2-J全体
 改めて全体像を見てみましょう。やはり実機は格好良いですね。これは個人的な意見ですが、疾風は非常に綺麗に設計されており中島飛行機の単発レシプロ戦闘機の集大成といった感じですが、紫電改はこれに対して粗削りで少し無骨な印象です。これは開発の歴史を考えると仕方のないことかもしれません。川西航空機の集大成といえば開発中止になってしまった「陣風」でしょう。こちらは紫電、紫電改の経験を基にスマートな飛行機となっています。実際に飛んだ姿を見たかったです。

まとめ
 さて、今回は愛南町の紫電改展示館の紫電改を紹介しました。この記事では簡単な実機の紹介のみ行いましたが、それ以外にも引き揚げられたその他の装備品やジオラマ、映像資料や亡くなった搭乗員の紹介など、興味深い展示が充実しています。ぜひ、実際に訪れて見学してみてください。
 また、本展示館は無料です。館内にはお土産コーナーがありますので、こちらで何か買っていくとみんなハッピーになれるのではないでしょうか。ちなみに私は「三四三空隊誌」を購入しました。次はアメリカの紫電改を見に行きたいな、なんて思っています。もちろん、今度新しく出来る筑波の博物館も楽しみです。皆さんはどんな飛行機を見てみたいですか?

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想お待ちしております。皆さんも、当然健康が第一ではありますが、良いところですのでぜひ愛南町を訪れてみてください。

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