WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

2020年08月

「二式飛行艇(一二型)操縦参考書」昭和18年10月 および
「現用機性能表」昭和18年5月1日 より

二式飛行艇一二型(H8K2)

主要寸法
 全長(length) 28.157m
 全幅(span) 38.000m
 全高(height) 9.196m

重量
 自重(empty) 17070kg
 偵察正規(normal) 24500kg
 偵察過荷(overload) 31000kg
 偵察超過荷(max. overload) 32500kg

発動機
 名称 火星22型(Kasei 22)×4
 出力(output)
  離昇(take-off):1850PS@0m 2600RPM +450mmHg
  公称(rated):1680PS@2100m 2500RPM +300mmHg
        1540PS@5500m 2500RPM +300mmHg

プロペラ
 直径(diameter) 3.9m
 ピッチ変更角(pitch angle) 27°~47°

飛行性能
     速度性能
 高度       最高速度
 (Alt.)      (Max. speed)
 1000m   約228.0kt(422km/h)
 2000m   約237.5kt(440km/h)
 2200m   約238.0kt(441km/h)
 3000m   約237.0kt(439km/h)
 4000m           約244.0kt(452km/h)
 4720m   約252.0kt(467km/h)
 5000m   約251.0kt(465km/h)
 6000m   約247.5kt(458km/h)
※現用機性能表を参考にしながら、操縦参考書内の速度性能グラフより読み取り。

 上昇時間
  4000mまで 8分53秒
 上昇限度
  実用(service ceiling) 8850m
  絶対(absolute ceiling) 9160m


ソース(source)   『二式飛行艇(一二型)操縦参考書』防衛研究所蔵
          "Type 2 Flying Boat(model 12) Pilot Reference Book"
          (Library of National Institute for Defense Studies)
          登録番号(registration number) ⑦教育-航空教範-219

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はじめに
 前回記事で予告したように、今回は雷電33型と火星26型エンジンについて少し考えてみました。そもそも雷電33型とは、雷電21型と比較すると①エンジンを火星23甲型から高高度性能を向上させた火星26甲型に換装し、②不評だった視界を改善するために機首を削り風防を高く改造し、③滑油冷却器を半埋め込み式のものに変更した機体です。
 当時、高高度用戦闘機としては排気タービンを搭載した雷電32型も並行して開発されていましたが思ったような結果が出せていませんでした。そんな中で良好な成績を示した雷電33型は量産が進められますが、地震や空襲によってエンジン生産工場は大きな被害を受け、終戦までに40数機が完成したに留まりました。

1.雷電33型(J2M5)の基本情報
主要寸法
 全長:水平9.695m、三点9.470m
 全幅:10.800m
 全高:水平3.945m、三点3.875m
 翼面積:20.05m^2
重量
 自重:約2540kg
 全備重量:約3500kg
武装
 20mm機銃×4

 基本サイズは雷電21型と同じです。重量は資料によって細かい数値が異なるため「約」としました。全般的に雷電21型よりもほんの少し重くなっているようです。武装は一号銃2門と二号銃2門の組み合わせです。二号銃4門の機体も存在し、これは雷電33甲型と称されるようです。

2.雷電33型の性能
 雷電33型には二つの系統の性能値が知られています。ひとつは海軍公式の諸元表に記載されているもの。もう一つは実験中に記録されたとされるものです。

①海軍作成の諸元表内の性能値
 最高速度:326kt(=604km/h)@6800m
 上昇時間:6000mまで7分10秒

②実験中に記録したとされる性能値
 最高速度:331.8kt(=614.5km/h)@6585m
 上昇時間:8000mまで9分45秒

 ②の記録に関しては、昭和19年9月28日に鈴鹿で実測された数値というかなり細かい情報があります。全般的に②の方が①よりも良好な成績を残しています。実験時の最高値と審査時の数値といった関係でしょうか。
 また6000mまで6分20秒との数値も伝えられていますが、計測状態等は不明です。7分10秒というデータと比較すると、軽荷状態で計測した数値かもしれません。

3.火星26甲型について
 はじめに言っておきたいのは、そもそも火星26甲型の過給機は1段2速式です。時折1段3速式であるという誤った情報が散見されますが(特に欧米圏で?)、明確に間違いであると断っておきます。
 そのうえで火星26甲型の特徴についてですが、従来の説では火星23甲型と比較して①過給機羽根車直径を拡大して全開高度を上げ、②吸入空気の通路を拡大させ、③減速比を0.5から0.625としたもの、とされてきました。
 ところが、前回記事で紹介した資料(コマ番号120)内では、羽根車直径が23型の320mmから310mmに短縮されていることが読み取れます。一方で増速比を高めることによって(一速:7.0⇒7.9、二速:9.12⇒10.10)高空性能を改善しています。また、減速比も0.625ではなく0.5となっています。これは一体どういうことでしょうか。
 まず過給機の羽根車直径についてですが、戦後三菱重工が戦時中の航空機の開発の流れをまとめた資料『三菱重工業株式会社製作飛行機歴史』内でも「扇車の径を増大」と書いてありますし、それ以外もほとんどの書籍でそのように書いてあります。しかしながら、奥宮・堀越『零戦』では「従来の機械式駆動の過給機の能力を上げる」という記述にとどまっており、羽根車の直径には言及していません。また、三菱重工が昭和18年8月に作成した『陸海軍制式発動機要目性能一覧表』内の火星26型の欄にも、羽根車直径は310mmと記載されているのです。以上のことから、従来の「羽根車の直径を拡大して高空性能を向上」という説は間違っていた可能性が高く、逆に直径を縮小しながらも増速比を高めることで高空性能の向上を実現したというのが実際ではないでしょうか。
 続いて、減速比が0.5か0.625かという問題ですが、これは答えを出すのが難しい問題です。前述の『三菱重工業株式会社製作飛行機歴史』でも『陸海軍制式発動機要目性能一覧表』でも海軍の諸元表でも減速比は0.625となっています。この変更は「生産上の見地から」(鈴木元海軍技術中佐)というもっともらしい理由も挙げられています。今ここで何が正解かを答えることはできそうにありません。
 加えて、このエンジンに関して重要な謎がまだ残されています。すなわち、火星26甲型の「甲」はなぜついているのでしょうか?「甲」があるということは「無印」の火星26型が存在して、火星26甲型とは何かが異なっているはずですが、その何かとは何なのでしょうか?もしかしたら減速比の違いが答えなのかもしれません。(ちなみに火星23型と23甲型の違いの答えをプロペラ減速比に求めるのはどうやら間違いで、充電用発電機が違うというのが正解のようです。)

4.火星26甲型の馬力性能
 火星26甲型の馬力性能についても、今まで細かいところまで検証されてくることは無かったように思います。考察⑦で火星23型の性能について、当初の予定性能・三菱側で測定した性能・海軍公式の性能の三種類に分けられそうだと書きましたが、火星26型でも同じことができそうです。

①当初の予定性能(『陸海軍制式発動機要目性能一覧表』より)
 離昇:???
 公称:1570PS@2800m、1400PS@7200m

②三菱の性能(『三菱重工業株式会社製作飛行機歴史』より)
 離昇:1800PS
 公称:1510PS@2800m、1310PS@7200m

③海軍の性能(『TABLE OF OPERATIONAL ENGINES』より)
 離昇:1760PS
 公称:1590PS@2500m、1400PS@6800m

 三菱の性能は当初の性能値と比べると全開高度は変わりませんが少し馬力が落ちています。一方で海軍の数値は馬力は変わりませんが全開高度が下がっています。

5.まとめ
 今回は雷電33型と火星26甲型について、いくつか考えてみました。火星26甲型の過給機羽根車直径の話は従来の説と全く逆なので確信はありませんが、状況証拠的には可能性は高いのではないかと思っています。
 ちなみに、雷電33型の疑問点は実はまだ少し残っています。例えばプロペラ直径は?ピッチ変節範囲は?などです。でも現状では答えは見つけられそうにありません。まだまだ調査を続けていきたいと思っています。
 今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。次回記事でもよろしくお願いいたします。

補足記事あり!!火星26型と26甲型の違いが分かりました。

はじめに
 前回の記事、『〈考察⑩〉栄31型の馬力性能について』内にて栄31型として考えられてきた馬力性能は栄31甲型の性能であったのでは?という考察をしましたが、新たな資料を見つけてしまったので追加報告をしたいと思います。
 結論から言ってしまえば、前回紹介した数値よりも栄31甲型は少しだけ悪い性能なのではないでしょうか。

新たな資料を見つけたよ
 早速その資料をご覧ください。コマ番号120ページに飛んでみると、「TABLE OF OPERATIONAL ENGINES」と題された1945年9月付の表を見ることができると思います。製作者は第一海軍技術廠(いわゆる空技廠)とみられます。敗戦後すぐに作成され、占領軍に提出したものでしょう。
 表をずっーとみていくと、「Ha-35mod.31(Sakae31)」と「mod.31ko(Sakae31ko)」が見つかるはずです。簡単に以下の表にまとめてみます。
sakae31ko
 全般的に31甲型の方が馬力、全開高度ともに31型よりも低いことが読み取れます。回転数が毎分2900回転になっているのは誤記だと思うので(?)を付けました。

考察
 ここで、「前回記事で書いたことは完全に間違っていた」と言うつもりはありません。記事内容の本質は間違っていないと確信しています。すなわち、栄31型のメタノール噴射時のブースト圧+300mmHgで全開高度が7000m近くになることは100%あり得ませんから、7000mで950馬力という性能値を栄31型のメタノール噴射時のものとするのは確実に誤りで、非噴射時の公称性能と考えるのが自然です。その上で、栄31型の非噴射時の公称性能=栄31甲型の公称性能とストレートに考えたというのが全開の記事の結論です。
 今回紹介した資料は全体的に記述におかしなところは少なく、信頼度は高いものと思います。この栄31甲型の性能も海軍内に残されていた正統なデータだと仮定すると、以下のような推論が成り立ちそうです。

1.前回「栄31甲型の性能」と考察した1080馬力@2700m、950馬力@7000mの公称性能は、あくまで「栄31型」の水メタノール非噴射時の2700rpm、+200mmHgでの性能である。
2.「栄31甲型」の公称運転時の性能は上記表にあるような数値である。
3.栄31型と31甲型の違いはメタノール噴射装置の有無くらいであるが、何らかの理由で非噴射時の性能に差が出ている。

では、その「何らかの理由」とは何なのでしょうか?正直納得できるものが思いつきません。
もしかしたら、31型の性能は甘めに計算した数値で、31甲型で測定し直してみたら結果が違ったのかもしれません。もしかしたら31甲型は大量生産の結果、材料品質・工作精度の低下があったのかもしれません。もしかしたら31型の毎分2900回転の記述は実は正しくて、2700回転の31甲型よりも高馬力だったのかもしれません。
 いずれにせよ現在与えられた情報では答えを得ることはできそうにありません。もっともっと調査を進めていく必要がありそうです。
 栄31甲型搭載の零戦の実際の全開高度が6800m付近にあることも加味すると、現在のところは栄31甲型の性能はこの表中のものであると考えていたほうがよさそうです。


余談
 ちなみにこの資料の中には火星26甲型の細かい性能も記載されています。今までほとんどよくわからなかった同エンジンですが、いろいろと面白い考察が出来るような気がします。次回は雷電33型をテーマにちょっと書いてみようと思っています。
 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想等お待ちしております。

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