WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

2020年07月

本記事では一式陸上攻撃機一一型・一三型(G4M1)の主要3タイプの性能について紹介します。すなわち、
1.一式陸上攻撃機一一型(火星一一型)
2.一式陸上攻撃機一三型(火星一五型・非推力式集合排気管)
3.一式陸上攻撃機一三型(火星一五型・推力式単排気管)
の三つです。

 それぞれ簡単に説明すると、一一型が最初の量産機で、火星一一型エンジンを装備していました。一三型は高高度性能向上のために公称二速全開高度を4100mから6000mへ高めた火星一五型エンジンを装備した改良型です。なお、一一型・一三型ともに略符号はG4M1となっています。そもそも戦争中期までは火星一五型装備機であっても一一型と呼称されていました。
 一三型は途中から消炎効果を狙って排気管を下図のように、集合式から単排気管に改めています。副次的な効果としてロケット効果による速度の向上も確認されました。
排気管比較図

主要諸元
寸法(3タイプ共通)
 全長:19.97m
 全幅:24.88m
 翼面積:78.125m^2

発動機
 火星11型
  離昇:1530ps / 2450rpm / +250mmHg
  公称:1480ps@2200m / 2350rpm / +180mmHg
     1380ps@4100m / 2350rpm / +180mmHg

 火星15型
  離昇:1460ps / 2450rpm / +250mmHg
  公称:1420ps@2600m / 2350rpm / +180mmHg
     1300ps@6000m / 2350rpm / +180mmHg

重量
 一式陸上攻撃機一一型
  自重:7,000kg
  偵察正規:9,500kg
  攻撃過荷:12,500kg

 一式陸上攻撃機一三型
  自重:6,800kg
  偵察正規:9,500kg
  攻撃過荷:12,500kg

性能
一式陸上攻撃機一一型(第1号機試験成績)
偵察正規状態(9,500kg)にて
 最高速度
  236.0kt(437.1km/h)@2,400m
  240.0kt(444.5km/h)@4,200m

 上昇時間
  3,000mまで 5'33"
  8,000mまで 22'23"

 実用上昇限度 9,520m

一式陸上攻撃機一三型(非推力式集合排気管・第241号機試験成績)
偵察正規状態(9,500kg)にて
 最高速度
  234.5kt(434.3km/h)@3,100m
  244.0kt(451.9km/h)@5,900m

 上昇時間
  3,000mまで 5'27"
  8,000mまで 20'18"

 実用上昇限度 9,660m

一式陸上攻撃機一三型(推力式単排気管・第948号機試験成績)
偵察正規状態(9,500kg)にて
 最高速度
  239.0kt(442.6km/h)@2,800m
  248.0kt(459.3km/h)@5,450m

 上昇時間
  3,000mまで 5'26"
  8,000mまで 20'00"

 実用上昇限度 10,020m


おまけ
G4M1
 参考までに3タイプの高度別最高速度のグラフを作成しました。第1号機については推定部分が多いので点線としましたが、第241号機、948号機の性能は実測値に基づいています。
 低高度での性能は一一型が最優秀ですが、高高度では一三型に大きく差を開けられています。一三型は排気管を推力式にすることによって全高度帯での最高速度が向上しました。一方で全開高度が幾分低下している点が気になります。排気管の形状の違いが何か影響しているのでしょうか?それとも別の要因があるのでしょうか?
 なお、第948号機の実験成績については、アジア歴史資料センターwebサイトにて閲覧できます。


 今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
 昨日今日と珍しく二日連続更新になりました。ネタが思いつけばどんどん更新していきたいと思っているのですが、なかなかそうもいかず更新が滞りがちになっています。また暫くは資料収集の時期に入りそうです。もちろん皆様からの情報提供もお待ちしています!!
 ところで今回初めてイラストも描いてみました。ボールペンで描いたものをスキャンしただけなのですが、少しでも分かりやすくなれば幸いです。

はじめに
過去記事『〈考察⑧-2〉紫電の性能について』にてあるコメントを頂きました。「誉搭載機の運転制限前後の性能が単純な割り算の3乗根になっているのでは?」という推察です。

一般に、速度を2倍にしたいなら馬力を8倍にしなければならないと言われます。ただし、飛行機の場合は高度による空気密度の変化があるため単純な3乗根の計算では正確な数字は出ません。

そこで、自分なりに誉エンジン搭載機の運転制限前後の性能を推定してみようと思ったのが今回の記事のきっかけです。これからも皆様の感想やコメントをお待ちしております。たいへん励みになります。


基本の計算式
という訳でいろいろと調べてみたところ、航空機の水平速度は以下のような計算で求めることができるようです。(手書きで恐縮ですが、一番見やすいと思ったのでこうしました)
速度計算式
凡例

まずは、堀越・奥宮『零戦』に記載されている雷電の数値を使って計算の練習をしてみます。
IMAG0014
これによると、馬力は高度5450mで1450PS、抗力係数は0.0265、プロペラ効率は0.74で最高速度は314ktという計算となっています。なお、雷電の翼面積は20.05m^2です。また、高度5450mでの空気密度は0.7013kg/m^3とします(ここから拾いました)。

そうすると、
V^3=8813*(1.225/0.7013)*(0.74*1450)/(0.0265*20.05)
      =31088193...
となり、
V=314.43...
というわけで314ktという数字を導き出すことができました。


それじゃあこんな感じで進めていきます。
なお、誉エンジン各型の公称2速性能は以下のようなものとします。
ハ45-11(誉11型) 1440PS@5700m
ハ45-12(誉12型) 1495PS@6550m
ハ45-21(誉21型) 1625PS@6100m

紫電改の性能を推測する
まずは紫電改の性能から。
本機はハ45-11搭載時に高度5600mで321ktを発揮したと仮定したうえで、まずはη/Cxを求めます。
321^3=8813*(1.225/0.689871)*(1440/23.5)*η/Cx
η/Cx≒34.5

このη/Cxを使って、馬力や高度などの条件を変えながら計算していきます。
なお今回はエンジン(プロペラ)を換装して最高速度に変化があってもη/Cxは変わらないものとしています。

ハ45-12装備時
V^3=8813*(1.225/0.620821)*(1495/23.5)*34.5
V≒337kt(624km/h)@6550m

ハ45-21装備時
V^3=8813*(1.225/0.652828)*(1625/23.5)*34.5
V≒340kt(630km/h)@6100m

という訳で、ハ45-12装備時の紫電改は620km/h少々は出せそうです。実際に運転制限下の紫電改試作機が620km/hを発揮したことがあるようですが、この計算結果を見る限り誉12型相当の運転条件であった可能性が高そうです。
一方で運転制限解除後の誉21型搭載機の計算結果は630km/hに留まっています。操縦参考書記載の644km/hという数字はやや過剰とも考えられます。

紫電の性能を推測する
続いて紫電です。
ハ45-11搭載時に高度5900mで315ktを出したと仮定した場合、計算したところη/Cxは約31.5となりました。そのうえで、
ハ45-12装備時は約327kt(606km/h)@6550mという数字が、
ハ45-21装備時は約330kt(611km/h)@6100mという数字が得られました。

以前の記事で紫電の最高速度については325kt(602km/h)というものもあると紹介しましたが、誉12型搭載時の計算結果にかなり近いことが分かります。
なお、運転制限を解除しても紫電の速度は当初の計画値から40km/hほど遅く、しかも運転制限下の紫電改とさして変わらないことが分かります。

疾風の性能を推測する
今度は四式戦闘機「疾風」です。
疾風はハ45-12搭載時に高度6550mで624km/hを発揮したと仮定したうえでη/Cxを計算してみると、約30.9という数字になりました。

そこで、ハ45-21装備時の最高速度を求めてみると、約341kt(632km/h)@6100mとなりました。
疾風試作機が運転制限ではない運転条件で、高度6120mで631km/hを発揮したとされていますから、計算値と実測値とがよく合っているようです。

一方でハ45-11装備時の性能も計算してみると、約322kt(596km/h)@5700mという数字が出てきました。
実は、個人的には疾風にもハ45-11搭載機がいたのではと考えています。なぜなら、陸軍の技術関係者のメモに疾風の最高速度が583km/hとか595km/hなどという数字が見られるからです。どうにも遅すぎるこの速度は、ハ45-11を装備していたからだと考えると辻褄が合うのです。

ところで、乙型試作機が高度6000mで660km/hを出したという原資料不明の話があります。しかし、今回の計算結果では30km/hほど足りません。集合排気管が単排気管になり、プロペラ直径が10cm伸びたところで30km/hの差を埋めることはできるのでしょうか?少し疑問が残ります。

おわりに
これで今回の考察は以上となります。なお今回の計算結果は多くの仮定を含んだあくまで「推測」であってある種の「遊び」の域を出ません。それでもいくつかの示唆を得ることはできるのではないかと思っています。皆さんも今日紹介した計算式を使って遊んでみてはいかがでしょうか。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

はじめに
 タイトルのとおり海軍の零戦21型と陸軍の隼I型を性能の面から比較します。この手の比較は様々なメディアでやり尽くされている感がありますが、当ブログ得意の一次史料データを基にして考察していきたいと思います。今回もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

前提条件
 まずは機体の寸法や重量等について簡単な表をつくってみました。隼のデータは『一式戦闘機説明書』(昭和17年1月)から、零戦21型のデータは『取扱説明書 零式艦上戦闘機』(昭和19年10月)に拠っています。
隼1vs零戦21(spec)
 両者を比較してみると、隼のほうが零戦よりも一回り小さいことが分かります。重量はというと隼が大幅に軽く、正規重量で比べると400kg近くも軽いようです。
 なお、一次資料にもいくつかあってそれぞれ微妙に数字が違うのですが、どれも大きくは違わないので今回は上記の資料のデータを使用します。おそらく速度・上昇性能測定時の寸法・重量もこれと大きく異ならないだろうという前提のもとで論を進めていきます。


続いてエンジン性能についても比較してみます。これも取扱説明書から数値を抜き出しています。
隼1vs零戦21(enginetable)
 オクタン価が異なるために栄12型のほうがブースト圧が高くなっています。また、過給機の羽根車直径、増速比ともに栄12型の方が強化されているので、ブースト圧の差にも関わらず全開高度はハ25よりも高くなっています。一方でハ25は回転数を上げることで栄12型に対抗しており、地上や全開高度における馬力性能は栄12型に勝っていることが読み取れます。プロペラは直径は同じ2.9mで定回転式なのも同様ですが、隼はブレードが1枚少なくなっています。


 お次は速度性能、上昇性能についてです。I型の性能については当ブログ内の記事「一式戦闘機一型(キ43-I)「隼」の性能/Ki-43I Oscar」に、零戦21型については同じく「〈考察⑥-1〉零戦11・21型(A6M2)の速度性能について」に基づいて比較していきます。両者の性能を表にまとめてみると以下のようになります。
隼1vs零戦21(speedtable)
隼1vs零戦21(climbtable)
ぱっと見てわかるのは低高度帯での差はあまりないけれども、高度が高くなるにつれ速度性能は零戦の方が良くなり、上昇性能は隼の方が良くなるということでしょうか。


なお、それぞれの翼面荷重および馬力荷重は以下のようになります。
隼1vs零戦21(ratio)


グラフ化してみました
 ここまでは数字の羅列だけでしたが、視覚的に、直感的に理解しやすいように、高度とエンジン馬力、最高速度、上昇時間の関係をグラフで表してみました。青線が零戦21型(栄12型)、緑線が隼I型(ハ25)を示しています。なお、下記グラフには一部推測が含まれることをご了承ください。
隼1vs零戦21(engine)
隼1vs零戦21(speedandclimb)修正

(※2020/7/22画像微修正)
 隼と零戦の性能の関係性がぐっと分かりやすくなったのではないでしょうか?高度3000m半ばまではハ25の方が高馬力ですが4000mを超えると栄12型の方が優勢となり、速度性能にもはっきりと差がついていることが分かります。
 逆に上昇性能については高度が上がっていくにつれて両者の差は広がる一方なのが分かります。これは単純に隼の方がかなり軽いからでしょう。

疑問点
 ここで一つの疑問点が浮かび上がります。すなわち「なぜ隼のほうが零戦よりも小型・軽量かつ低高度での馬力が大きいのにも関わらず、4000m以下での速度性能がほとんど変わらないのか?」という疑問です。
 飛行機をより高速にしたければ、エンジン馬力を向上させるか、空気抵抗を軽減させることが重要になってきます。この場合ではエンジン馬力は隼の方が高いので、零戦の方が空気抵抗が少ないからというのが答えではないでしょうか。
 一方で、よく誤解されがちですが重量の増減は実はそこまで速度性能には影響がありません。重量が大きい方がたくさん揚力を必要とするので迎え角が大きくなり、結果として空気抵抗が増加することには繋がりますが、機体のサイズを小さくしたり機体の形状を滑らかにするほうがよっぽど効果的です。

そこで、この空気抵抗の差を生んだのはどこなのかを挙げてみると、
1.主翼・・・隼の前進翼 vs 零戦のテーパー翼
2.主脚・・・カバーなしの隼 vs カバーありの零戦
3.尾輪・・・固定式の隼 vs 格納式の零戦
4.風防・・・角型の隼 vs 曲線の零戦
といったところでしょうか。

 一方でプロペラ枚数の違いによる性能差は不思議とそこまで感じられません。零戦の設計者である堀越二郎氏も実は二枚プロペラにしたがっていた節がありますが、振動問題のため三枚に変更したようです。この辺りの影響は正直あまりよく分かりません。もしかしたら隼も3枚ペラにしたらそれなりにスピードアップするのでしょうか?

まとめ
 という訳で今回の考察はここまでとなります。
まとめると、
(1)速度に関しては4000m弱までは零戦も隼も大差はないが、それ以上になるとエンジン過給機の性能から大きく差がつく
(2)軽量な分だけ隼の方が上昇力が良好である。
(3)低高度では、両者のエンジン馬力差にも関わらず零戦と隼の速度差はほとんどない。これは零戦の方が空気抵抗が小さいからと考えられる。
といった感じです。

 ところで、零戦21型はその後主翼外板の厚みを増やしたことで剛性が増し、高速飛行時にシワが生じなくなったとのことで最高速度が約530km/hまで向上しています。隼I型も主翼の強度に不安を抱えており実戦においても空戦中に主翼が折れる事故が発生していましたから、零戦同様に主翼を厚くすれば速度性能が向上する可能性があります。参考までに、改修後の零戦21型の急降下制限速度は630km/hですが、隼I型は500km/hと極めて低い数値となっています。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました。もし好評なら今度は隼II型vs零戦32/22型もやってみようかなと思います。

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