WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

2019年09月

パイロットの評価

フランク(キ84)はある連合軍佐官パイロットによって飛行され、以下は彼の報告に基づいている。

・コクピットのレイアウトは全般的に満足いくものであり、エンジンと飛行計器は適度によくまとまっている。
・この飛行機は芝の上でのみ飛行した。タキシングと地上ハンドリングは、貧弱なブレーキと回転しづらい尾輪のために、全般的に悪い。直線走行時は尾部が上がってくる傾向もなく、上手くタクシーできる。
・離陸はやや振れる傾向があるも通常である。尾部は容易に持ち上がり、前方視界を向上させる。
・上昇角度は急ではなく、あらゆる点で普通である。操舵力も重くないが、新しいエンジンが装備されたばかりであったのでハイ・パワーでの継続上昇は実施されていない。
・この飛行機の取扱と操作は失速から270マイル(434キロ)までの全ての速度で良好である。昇降舵は全ての速度域で重い方である。補助翼は275マイル(442キロ)までは素晴らしいが、300マイル(483キロ)では非常に重い。方向舵は低速では中立に近い角度のため柔らかいが、300マイルで満足できるものとなる。この飛行機は右翼が重く、左にヨーした。
・トリム・タブが無いので手放し飛行のためにトリムすることができない。しかしながら、飛行中全般的に、横、縦、進路方向の安定性は動的にも静的にも正であると思われる。
・横転、インメルマンや旋回は通常の速度では容易に実施される。しかし、300マイルでの補助翼は良好な機動をするには重すぎる。
・視界はタキシング、離陸、上昇、水平飛行と着陸には悪い。これはコクピット周囲が狭いのと操縦席が後方に位置しているためである。
・アプローチと着陸は良好である。この飛行機は全てのオレオが軟らかく着陸は容易である。
・戦術的なデータは得られなかった。
・全般的にこれは飛行するのに容易な飛行機である。
(1)長所は、
a. 良好な安定性
b. 通常の速度でのバランスのとれ効果的な操作
c. 簡潔なコクピットの配置
d. 良好な離陸、着陸特性
e. 良好な失速特性

(2)短所は、
a. 視界の不足
b. 頭部と足の空間の不足
c. 貧弱なブレーキとラダー・ブレーキの動作
d. 高速時の重い操作

ソース TAIU "Operational JAP Fighters"  Aug/1945 p.35~36


以下原文

PILOT'S EVALUATION
 The FRANK (Ki 84) was flown by an Allied field grade pilot and the following is taken from his report.

 Cockpit layout is, in general, satisfactory, with the engine and flight instrument being fairly well grouped.

 This airplane was flown on sod only. Taxi and ground handling in general is poor due to poor brakes and difficulty in getting tail wheel to castor. It taxies well in a straight line with no tendency for tail to come up.

 Takeoff is normal with little tendency to swing. Tail comes up readily which improves forward vision.

 Climb angle is not steep and is normal in all respects. Control forces are not heavy, however no extended climbs at high power were made due to the fact that a new engine had just been installed in the plane.

 Handling and control of this airplane is good at all speeds from the stall up to 270MPH. Elevators are on the heavy side at all speeds. Ailerons are excellent up to 275MPH; however, at 300MPH they are too heavy. Rudder is mushy at low speed for angles near neutral, although it is satisfactory at 300MPH. The airplane was right wing heavy and yawed to left.

 Due to lack of trim tabs, airplane could not be trimmed for hands-off flight. However, for flying in general, the longitudinal, directional and lateral stability appears to be positive both dynamic and static.

 Rolls, Immelmans and turns are executed with ease at normal speed; however, at 300MPH ailerons are too heavy for good maneuvering.

 Vision is poor for taxing, takeoff, climb, level flight and landing. This is due to narrow cockpit inclosure, and rearward position of pilot's seat in airplane.

 The approach and landing are good. The airplane is easy to land with all oleos being soft.

 No tactical data obtained.

 In general, this is an easy airplane to fly.

(1) Its good features are:
 a. Good stability
 b. Balanced and effective controls at normal speeds.
 c. Simple cockpit arrangement.
 d. Good takeoff and landing qualities.
 e. Good stalling characteristics.

(2) Its poor features are:
 a. Lack of vision
 b. Lack of head and leg room.
 c. Poor brakes and poor rudder brake action.
 d. heavy controls at high speed.

前回と比べて3機種分データを追加しました。結構見づらくなってしまいましたが、陸軍の戦闘機はほとんど全てカバーできたと思います。
こうやってみると五式戦はデータ上は非常に平凡な機体だということが分かりますね。

※前回の記事はURL http://warbirdperformance.livedoor.blog/archives/2689735.html

『二式戦闘機審査経過及審査成績ノ概要』昭和16年12月 より
from "Outline of the progress and result of the examination of Type 2 fighter" Dec/1941

全長(length)    8.850m
全幅(span)      9.450m
全高(height)    2.900m
翼面積(wing area)  15.000m^2

空虚重量(empty weight)  1994kg
正規全備(normal load)     2550kg
燃料満載(full fuel)            2631kg
落下タンク(with drop tank)   2856kg

エンジン(engine)  100式1250馬力(Type100 1250HP) ≒ ハ41(Ha-41)
離昇(take-off)       1200PS  2500rpm
公称(rated)        1260PS  2450rpm  3700m

飛行性能(flight performance)
   高度    最高速度      上昇力
   (Alt.)   (Max. speed)  (Climb. time)
   1000m   510km/h     1'19"
   2000m   535km/h     2'31"
   3000m   561km/h     3'35"
   3870m   583.5km/h
   4000m   583.5km/h          4'38"
   5000m   584km/h     5'54"
   6000m   578km/h     7'33"
   7000m   570km/h     9'48"

上昇限度(ceiling)  実用(service)   10820m
                        理論(absolute) 11230m

ソース(source)   『二式戦闘機審査経過及審査成績ノ概要』昭和16年12月
                             "Outline of the progress and result of the examination of Type 2 fighter" Dec/1941
          防衛研究所蔵

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『十二試三座水上偵察機(第三号機)実験報告』空技廠 昭和16年6月1日 より
from "Type12 Experimental Three-seat Reconnaissance Seaplane Examination report" KuGiSho 1/Jun/1941

全幅(span)     14.504m
全長(length)                11.498m
全高(height)     3.996m
翼面積(wing area)       36.2m^2

自重(empty weight)   2640.0kg
総重量(gross weight)   3650.0kg

エンジン(engine)  金星43型
 公称地上   1000PS  2500rpm  +150mmHg
 公称高度   1075PS  2500rpm  +150mmHg  2000m

飛行性能(flight performance)
 飛行重量(flying weight)  3650kg
 試験日(test date)  昭和15年12月16日~19日(from 12~19/Dec/1940)

 速度性能(speed performance)
高度      最高速度       回転数   吸気圧力
(Alt.)     (Max. speed)      (RPM)    (mmHg)
      0m   181.5kt(336km/h)    2505    +150
  500m   186.0kt(344km/h)    2510    +150
1000m   190.0kt(352km/h)    2510    +150
1500m   194.5kt(360km/h)    2510    +150
2000m   199.0kt(369km/h)    2505    +150
2240m           201.0kt(372km/h)              2505            +150
2500m   201.0kt(372km/h)    2505    +125
3000m   201.0kt(372km/h)    2505    +75
3500m   200.5kt(371km/h)    2505    +25
4000m   200.0kt(370km/h)    2500    - 20

 上昇性能(climbing speed)
高度    上昇時間    回転数   吸気圧力
(Alt.)     (clim. time)     (RPM)    (mmHg)
  500m   1'14"    2510    +150
1000m   2'25"    2505    +150
1500m   3'33"    2505    +150
2000m   4'35"    2505    +112
2500m   5'48"    2505    +54
3000m   7'05"    2500    +2
3500m   8'30"         2500    - 46
4000m   10'10"       2500    - 91
7570m   41'17" (実用上昇限度service ceiling)


ソース(source)   『十二試三座水上偵察機(第三号機)実験報告』防衛研究所蔵
          "Type12 Experimental Three-seat Reconnaissance Seaplane Examination report"
          (Library of National Institute for Defense Studies)
          登録番号(registration number) ⑥技術-研究資料-9

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はじめに
 海軍では「誉21型(NK9H)」、陸軍では「ハ45」、統合名称では「ハ45-21」と呼ばれたこのエンジンは非常にコンパクトな形状でありながら離昇2000馬力を達成した「奇跡のエンジン」です。しかしながら数々のトラブルに見舞われ、実戦で2000馬力を発揮したことはほとんどありませんでした。すなわち、100オクタン燃料の使用を前提として開発されたものの日米開戦によって高オクタン価ガソリン安定供給は不可能となったことや(水エタノールで代用)、各気筒に燃料を均等に上手く配分できないなどの技術的トラブル、希少金属の不足やそもそもの日本の工業基盤の弱さなどの要因が合わさって不具合が多発したために、運転制限を課して1800馬力程度まで性能を下げて運用していたのです。誉21型エンジンを搭載した紫電改や疾風は2000馬力エンジン搭載機としては控えめな性能となっているのは、運転制限下で性能が計測されたからなのです。
 ところで、運転制限下の誉21型の性能とはどういったものだったのでしょうか?陸軍と海軍とでは違いがあったのでしょうか?これが今回の私の疑問です。

誉21型の性能
まず誉21型の性能についてです。資料よって数字に差がありますが、主なものを以下に列挙します。

 離昇馬力/回転数/吸気圧       公称馬力/回転数/吸気圧/高度
①   2000/3000/+500            1900/3000/+350/1750m 1700/3000/+350/6400m
②   1990/3000/+500            1860/3000/+350/1750m 1625/3000/+350/6100m
③   1850/3000/+450            1865/3000/+350/1500m 1675/3000/+350/6100m

①と②は紫電改の取説や操縦参考書からのデータで③は中島の疾風データからになります。陸軍機は離昇出力を海軍よりも抑えていたのでしょうか。一方で公称馬力は似たような数値になっています。(なぜ微妙に違うのかは分かりませんが)
もしエンジンが完調であれば高度6000mで紫電改は644km/hを、疾風は660km/hを発揮できるとされています。

運転制限下の紫電、紫電改と疾風の速度性能
しかしながら、前述のとおり誉21型エンジンには運転制限が課され離昇約1800馬力の誉10型シリーズ(陸軍では「ハ45特」)相当まで性能を下げざるを得ませんでした。その結果得られた速度は以下のようなものでした。

紫電11型  570km/h(5600m) や 583km/h(5900m)
紫電改   594km/h(5600m) や 620km/h(6000m)
疾風    624km/h(6550m)

ご覧のように、海軍機は5600m~6000mで、陸軍の疾風は6550mで最高速度を発揮していることが分かります。この高度差はどこからきたのでしょうか。同じエンジンを搭載した機体であっても異なる設計であればこれぐらいの高度差は出ることがあります。ただ、陸軍向けと海軍向けでエンジンのセッティングが異なっている可能性も大いにあります。運転制限下でのエンジン性能はどれくらいだったのでしょうか。

誉10型の性能
運転制限の目安とされた誉11型・12型の性能と、操縦参考書中の運転制限下のハ45の性能を以下に列挙します。

      離昇馬力/回転数/吸気圧      公称馬力/回転数/吸気圧/高度
誉11型  1820/2900/+400     1650/2900/+250/2000m 1440/2900/+250/5700m
誉12型  1825/2900/+400     1670/2900/+250/2400m 1495/2900/+250/6550m
ハ45   1850/3000/+400     1680/2900/+250/2300m 1500/2900/+250/6500m

こう見ると誉12型と運転制限下のハ45の性能は高度性能がかなり似通っています。というのも、以下のように誉21型やハ45と誉12型の過給機は増速比が同じものなのです。

    羽根車直径     増速比
誉11型    320mm  一速:5.47 二速:7.49
誉12型      320mm  一速:5.81 二速:7.95
誉21型      320mm  一速:5.81 二速:7.95
ハ45       320mm  一速:5.81 二速:7.95 

ということは誉21型の運転条件を誉10型と同じ条件まで落とすと、自然と誉12型の性能と類似することになります。誉12型と運転制限下のハ45の性能が似ているのは当然なのです。また疾風の最高速度は誉12型の全開高度である6550mで計測されていることも納得できると思います。
 一方で、紫電や紫電改の最高速度は6000m以下で計測されました。大概の飛行機はエンジンの全開高度付近かその上で最高速度をマークする傾向にあります。そう考えると、これらの最高速度は全開高度が5700mの誉11型を使用したときに発揮されたと考えるとしっくり来ないでしょうか。

紫電改は誉11型を載せていたか
 そこで私は仮説を立てました。すなわち、「紫電や紫電改の最高速度は誉21型の運転条件を誉10型シリーズと同等まで下げた状態で計測されたのではなく、そもそも誉11型を装備していたか、もしくは誉21型の過給機の設定を誉11型と同様にした状態で計測された」のではないでしょうか?一方で疾風は誉21型エンジンの運転条件をそのまま下げた状態で速度の計測を行ったのではないでしょうか。
 一切文書等での裏付けのない勝手な想像に過ぎませんが、皆さんはいかがに思われますでしょうか?


最後までお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご指摘、ご感想等コメント欄にいただけますと幸いです。どうぞ宜しくお願い致します。

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