WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

はじめに
 タイ王立空軍博物館の続きです。第二回は、別展示館を探索してみますよ。下の地図では②にあたる建物です。
※なお、この分類は私が勝手にしているものですからご注意ください。
satelite_map_2

 メイン展示館とは屋根で繋がっており、雨に濡れずに行き来することができます。室内は、下の画像のような感じです。写真に撮ってはいませんが、この他に制服や勲章などを展示している部屋もありましたよ。
 それでは早速、どんな飛行機がいるのか見てみましょう!
museum

展示機紹介
 こちらはイギリス、デハビランド社の傑作練習機「タイガーモス」です。王立タイ海軍は1950年に30機を初等練習機として導入したのだそうです。
DH-82A

 これはフランス、ブレゲー社のブレゲー14の3/4サイズのレプリカです。1919年に導入されたとのことで、タイ空軍の歴史の古さが感じられます。
Breguet 14

 お次のこちらはレプリカではなく実機です。この米ボーイング社製のボーイング・モデル100Eは米陸軍P-12Eの輸出型です。複葉戦闘機で、もとは艦上戦闘機F4Bとして開発された機体です。
 タイ空軍は1931年に本機を2機輸入し、英ブルドッグや独HD43との比較評価を行ったとのことです。なお、この機体はタイに現存する最も古い飛行機だそう。
Boeing 100E

 これは米パイパーの名機「カブ」の軍用型、L-4Jです。
L-4J

 そんでもってこちらは米スティンソン社のL-5「センチネル」ですね。
L-5

 そしてそして、今回の記事の目玉機体のひとつ、米カーチス社の戦闘機H-75「ホーク」、、、の輸出用の固定脚タイプ「H-75N」です!
 本機は本国よりも輸出先での活躍の方が有名ですよね。フランス、フィンランド、中国などなど。
H-75N

 せっかくなので、少し近くで見てみましょう。機首部分はこんな感じです。プロペラはカーチス社製の電気式定回転プロペラのはずです。
H-75N_nose

 本来であれば引き込み脚機構を備えた機体なのですが、中国やタイへの輸出モデルは固定脚を装備していました。脚は一応カバーで整形はされているようです。
H-75N_gear

 武装は機首に2門の機銃があるはずなのですが、なんか機銃口が塞がれているような?そのほかタイプによっては翼内にも機銃が装備されているようなのですが、本機は翼下にガンパックが装備されています。が、ちょっと詳細不明です。

 足のカバーも機銃カバーもなんか結構適当ですね。輸出型だからなのか、タイに来て取り付けられたのかは分かりませんが。もしなにかご存じでしたら教えてください。
H-75N_gun

 翼下には爆弾も取り付けられていました。重武装、固定脚で爆装もできるので、結構使い勝手は良さそうな飛行機ですね。
H-75N_bomb

 タイ空軍は1937年に12機のホークを購入。仏印紛争でフランスを相手にし、日本のタイ進駐では日本軍に抵抗し、二次大戦では日本と共に連合国軍と戦いました。まさに歴戦の勇士といったところでしょうか。
H-75N_side
名残惜しいですが、ホークはここまでにして先に進みます。

 ここにはなぜか一機だけ、ジェット戦闘機も展示されていました。いっぱい余っているのか、ここにもF-5Eです。ただし本機は後期生産型の「タイガーシャーク」です。
IMG_8838

 正面から見ると、こんな感じです。なんだかステルス機っぽく見えますね。
F-5E_nose

 ところで隣にあるこれはなんですかね??はじめて見ました。
what_is_this

 まあそれは置いておいて、ついに前回の記事で予告していた日本製航空機に移りましょう。日本にも残っていない、99式高等練習機です!

 本機は98式直接協同機の練習機バージョンで、立川飛行機の開発、製造です。タイ空軍は24機を導入し、1942年から1950年まで本機を運用していました。中国にも直協機バージョンが1機現存しているようですので、本機は世界に2機しか残っていないうちの1機となります。
Ki-55
 ということで、もっと詳しく本機を見ていきましょう!!

99式高練を詳しく見てみる
 さっきの画像は2階からだったので、今度は真横から。機首は角ばったスタイルですが、全体的にすらっとしていて綺麗な設計ですよね。設計に際しては97式司偵を参考にしたとのことですが、なんとなくそんな気もしますね。
 主翼には後退角がついており、良好な下方視界を備えています。たぶんアメリカの傑作練習機T-6(テキサン敵さん)に強い影響を受けているものと思います。
Ki-55_side

 機種をアップで。ちょっと97式司偵の二型っぽくないですか?
プロペラは二翅。ピッチ角は高低の二段可変節で、定回転式ではありません。
Ki-55_nose

 さっきのホークと違ってスピナーを装備しています。先端には始動機と接続するためのねじねじが付いています。
Ki-55_spinner

 ちなみに機首には固定武装として89式固定機関銃が1門装備されています。
Ki-55_nose_muzzle

 キャノピーはこんな感じ。前席、後席の二座式です。練習機なので、どちらからでも操縦できるようになっています。照準器?っぽいものもありますね。
Ki-55_canopy

 後席のレールは妙に長いです。
ところで日本機の表面はべこべこと良く言われますが、練習機レベルでも全然そんなことないことが分かります。
Ki-55_rear_canopy

 左側には乗り込む際の足場も見ることができます。う~ん、格好いい。
Ki-55_left_front

 脚のスパッツは、きれいに整形されています。さっきのホークがやっつけ仕事に見えてきてしまいます。。。
Ki-55_landing_gears

 真正面から見るとこんな風。余計な出っ張りもないし、非常にすっきりとしています。
中央翼には上反角がありませんが、外翼には8度の上反角がつけられています。
Ki-55_front_view

 参考のために、取扱説明書から三面図を拝借してきました。写真だと分かりづらいのですが、外翼には14.3度の後退角が付けられています。図面だとはっきり分かりますね。
Ki-55_manual_three_view

 ちょっと主翼を重点的に見ていきましょう。左翼。これねじり下げがついてますよね。
Ki-55_left_wing

 こちらは右翼。フラップは下げ状態です。
Ki-55_right_wing_front

 右翼を後ろから。エルロンが長いのは日本機共通の特徴です。きっと低速時の運動性能は抜群でしょう。
Ki-55_right_wing_rear

 フラップはスプリット式です。中央翼と外翼で分割されています。
Ki-55_flaps_A

 この角度の方が分かりやすいでしょうか。実はスプリット式フラップで揚力係数が増える理屈がいまいちよく分からないんですよね。主翼の後縁で気流が合流してなくない?と。抗力が増すのは分かるんですが、、、
Ki-55_flaps_B

 ちなみに主翼下面にはタイダウン用の金具が。
Ki-55_under_wing

 オリジナルのままかは分かりませんが、一応取説と同じ位置に付いてます。こんな風に取説と本物を比べてみるのも面白いですよね。
Ki-55_manual_tie_down

 後部胴体です。タイのラウンデルが黄色い機体色によく似合っています。その後ろにあるのは、水平姿勢にするための棒を突っ込む用の穴ですね。
Ki-55_fuselage

 尾翼部分です。方向舵の比率が安定板と比較して大きめですね。
Ki-55-tail

 そして水平尾翼。トリムタブもちゃんとついてます。
Ki-55_hrzntl_tail

 そんな感じで99式高練の見学終了です。本機を見るだけでも、ここに来る価値はありそうです。保存状態も良好なように見えますので、このままタイで大切にされるのが絶対に良いのではないでしょうか。来るのがちょっと大変ですが、タイミングが合えば来たいと思う人は多いと思います。(さて、何回「タイ」といったでしょうか笑)
 これで今回の記事は終了です。次回の記事では屋外の展示機を見ていくことにしましょう!

おまけ
 別展示館の天井にはグライダーが展示されています。特に説明書きがなかったのですが、これって日本のK-14とK-15じゃないでしょうか?
 もし本物だったらかなり貴重だと思うのですが、誰か情報ご存じでないでしょうか?
K-15

K-14

はじめに
 みなさま、たいへんご無沙汰しております。諸事情により全く更新できていませんでしたが、今回東南アジアの航空博物館歴訪の旅に出ておりましたので、その報告をさせていただければと思います。
 まず第一回はタイはバンコクにあるタイ王立空軍博物館です。かなり大規模な博物館ですので、何回かに分けてご紹介していきたいと思っています。
outside


博物館概要
 本博物館はアジアでも有数の規模を誇る航空博物館で、残念ながら日本にはこれと比較できるような博物館はないでしょう。そのコレクションについても、世界でもここにしか現存していない航空機を保有しているなど目を見張るものがあり、航空機愛好家であればタイ旅行の行先リストに是非とも組み込んでおきたい場所のひとつです。
 開館時間は情報がまちまちで、9時~15時半としているものもあれば8時~16時としているものもあるなど不確かなのですが、月曜日が休館日のようですので訪問の際はご注意ください。ちなみに無料です。すごいですね!!
 さて、この博物館を訪れる際は、鉄道を使用するのが便利です。なんと、最寄駅はそのものずばり「タイ王立空軍博物館」駅となっております。最近BTSスカイトレインのスクンビット線が延伸したらしく、以前であればバスで行くしかなかったのが随分と便利になったようです。バンコクの都心からの所要時間は45分程度といったところでしょうか。

satelite_map
Google mapを加工して作成

 さて、ここからは博物館を便宜上、以下の8つのエリアに分けて紹介していきたいと思います。

 ①メイン展示館
 ②別展示館
 ③アーケード
 ④北屋外展示
 ⑤南屋外展示
 ⑥ヘリ格納庫
 ⑦訓練格納庫
 ⑧売店・食堂

 なお、この分類は公式のものでもなんでもなく、私が勝手にしているだけですからご注意ください笑  それでは、スタート!!

①メイン展示館
satelite_map_1
 まずはメイン展示館からです。上の画像では右が北を向いているので、正門は東にあることになります(下の黄色矢印)。しかしながら、私が訪問したときは正門は入れなくなっており、北門(画像の右の黄色矢印)から入ることになってしまい、見学順序が少しおかしくなってしまいました。その辺を気にされる方はご注意ください。

entrance
 さて、正面玄関を入ってすぐにお出迎えしてくれるのはF-5君です。その傍らにはタイ国内の空軍基地の位置とエンブレムが一目瞭然となっています。
 ここを左手に進んでいくと、タイ空軍の歴史を実機とともに学んでいくことができます。

 まずは、第一次世界大戦期のレプリカたちが待っています。
Niewport IV.G
↑ニューポートIV.G(レプリカ)
Breguet III
↑ブレゲーIII(レプリカ)
two_aircrafts
↑国産機パリバトラ(レプリカ)

 さらに進んでいくと、戦間期の貴重な機体に出会うことができます。レプリカではなくて実機ですよ!

 これはアメリカのヴォート社が開発した観測機、V-93S「コルセア」です。あの逆ガル翼の艦上戦闘機F4Uのご先祖様にあたる機体ですね。米海軍ではO2U、O3Uの型式番号が与えられている本機は、なんと日本にも評価用に輸入されていたそうです。
V-93S

 そのコルセアと並んで展示されているのがカーチス社製の「ホークIII」、複葉引き込み脚という、いかにも戦間期の機体です。
Hawk III
 タイ空軍は本機の輸入だけでなくライセンス生産も実施していたそうで、タイの航空産業は思ったよりも発展していたようです。

 ちなみに、97式戦闘機の中央翼部分の残骸や、撃墜されたP-51Dマスタングのエンジンやプロペラなどもここに展示されていました。
Ki-27_wreckage
P-51D_engine

 さて、もっと進んでいくと、二次大戦後の機体のエリアに続きます。
ここでは、F8F「ベアキャット」、T-33「シューティングスター」、F-84G「サンダージェット」、そしてRF-5A「フリーダムファイター(の偵察機型)」を見学することができます。
F8F
 ベアキャットを間近に見て感じたのは、プロペラが大きいということ。本機はタイ空軍最後のレシプロ戦闘機として、1951年から60年まで活躍しました。

T-33
 機首のトラがカッコいいですね。

F-84G_and_F-5
 F-84はエアブレーキが展開されている様子をみることができます。

 ところで、文句を言うわけではないですが、このエリア、本当に暗いんですよね。ベアキャットなんかは塗装も相まって写真が全然撮れないんです。掲載している写真も明度をがっつりいじっています。雰囲気づくりも大切かもしれませんが、個人的には明るい場所で見学したいな、と思ってしまいます。

 愚痴はさておいて、このエリアを抜けると、ついに現代の戦闘機、しかも超珍しい機体を間近でみることができますよ!!

 しかし本題に入る前に、まずは肩慣らしでF-5Bでもご覧ください。くびれがセクシーだと思いませんか?チップタンクもエリアルールに則ってくびれているもの見て取れます。
F-5
 ちなみに尾翼に「世界で最初のF-5B」て書いてあったのですが、本当でしょうか?

F-5A
 また、向かいにはF-5Aが展示されているのですが、機首アクセスパネルが開いた状態で展示されておりM39機関砲の搭載状況を確認することができます。バルカン砲のようなガトリングではなく、ご覧のように単銃身のリボルバーカノンとなっております。

F-16
 現役バリバリの第4世代戦闘機、F-16Aだってこんなに近くで見れちゃいます。これでも十分スゴイのですが、でも、もっと珍しい機体を見ることができますよ!

Gripen
 じゃ~~ん!!スウェーデンはサーブ社製の戦闘機「グリペン」です。現在タイ空軍は11機のグリペンを運用中とのこと。本機はそれとは別に、タイ空軍設立100周年を記念してスウェーデン空軍から寄贈されたのだそうです。
 というわけで、グリペンをもう少し詳しく見て今回の記事は終わりにしましょう。

グリペンを詳しく見る
 JAS39「グリペン」はスウェーデン空軍のためにサーブ社によって開発された国産マルチロール機です。型式番号の「JAS」とは、それぞれ戦闘機・攻撃機・偵察機を表しています。
 本機は水平尾翼を持たない代わりにカナード翼を装備するクロースカップルドデルタ形式を採用しており、機体の小型化・軽量化を図っています。というもの、冷戦時のスウェーデン空軍の要求から高い短距離離着陸能力を求められており、複合材の多用などにも大きな注意が払われています。
 初飛行は1988年12月9日で、なんと35年も前なんですね。しかしながら昨年2022年には最新型のグリペンEの運用がブラジルで新たに開始されるなど、アップデートを重ねながら依然として第一線で活躍をしています。
Gripen_side_view
 この写真からも、グリペンの小ささが伝わるでしょうか。少し上にも書きましたが、現在タイ空軍は11機のグリペンを運用中です。内訳は、単座のC型が7機、複座のD型が4機となっています。なお中途半端な数になっているのは、2017年1月のエアショー中の事故によってC型1機が失われているためです。

 ところでこの展示機はシリアルナンバー39178でグリペンA型にあたります。なぜこんなバリバリの現役機がタイに寄贈され展示されてるのか不思議ですが、冷戦終結による軍縮の影響でスウェーデン空軍ではグリペンが結構余っているらしいので、別に1機くらいあげても問題なかったのかもしれませんね。

Gripen_nose
 機首部分です。ラウンデルはスウェーデンですね。グリペンはD型まではスウェーデンのエリクソン社が開発したPS-05/Aというパルスドップラーレーダーを装備しています。ラウンデルの前方、黄色いシールの前にニョキっと突き出してるのはAOAセンサーでしょうか。機首にはピトー管も確認できます。
Gripen_canopy
 空気取入口は固定式かと思いますが、最高速度はマッハ2とのことです。エンジンはFA-18「ホーネット」にも採用されたGE社製「F404」エンジンをベースにしたボルボ「RM12」を搭載しています。
Gripen_forward_gear
 前脚です。カバーには着陸灯も付いてますね。その前にあるアンテナは、なんのためのものでしょうか?手元の資料ではちょっとわかりませんでした。
Gripen_main_gears
 主脚とドロップタンクです。タンクの容量は1100リットルだそう。胴体中心線上のハードポイントにはその他に各種爆弾を取り付けることができます。その脇には目標指示ポッドなども装備可能です。
Gripen_gun
 固定武装として独マウザー社の「BK-27」27mm機関砲を装備。こちらもF-5のM-39機関砲と同様のリボルバーカノンとなっています。というよりもマウザー社がリボルバーカノンの本家で、この種の機関砲はどれも二次大戦末期に開発されたマウザー「MG213」が基になっているといっても過言ではないようです。
Gripen_belly
 カナード翼は、主翼と比較してやや高めの位置に取り付けられています。カナードは全遊動式で、操縦翼面としての役割だけでなくエアブレーキとしての役割も持っています。
 背中にはなにがしかのブレードアンテナが大きいの1本、小さいのが2本確認できます。
Gripen_right_wing
 この写真では少しわかりにくいですが、カナードには上反角がついています。主翼には翼端のランチャーに加え、翼下に二つのパイロンがあることが分かります。
Gripen_left_wing_B
 この写真からは、前縁フラップが下がった位置にあることが確認できるかと思います。実はその右側の前縁も作動可能となっており、つまり二分割式の前縁フラップを装備していることになります。両者の翼弦長には差がつけられておりドッグトゥースを形成しています。後縁部分はわかりづらいですが、こちらも二分割式のエレボンを装備しています。
Gripen_left_wing_A
 翼端のランチャーには短距離AAMのみを装備することができ、翼下パイロンにはARHミサイルのほか、対地、対艦ミサイルや爆弾を取り付けることが可能です。
 グリペンを対艦ミッションで運用する国は少ないのですが、タイ空軍は対艦ミサイルとしてRbS15Fを導入しています。
Gripen_back
 背中です。BWBの概念を導入した第4世代以降の戦闘機の背中は、なんというか生物感があるというか、ある種セクシーでありながらある種グロテスクでもあるような気がします。(伝わりますかね。。。)
Gripen_back_close_up
 カナードの横にあるちっちゃなでっぱりは、アンテナではなく、高迎角時に気流の剥離を防止するストレーキです。カナードがない無尾翼デルタ翼機にはあるのはわかるのですが、カナード翼機にも要るんですね。たしかラファールには無かった気がします。
Gripen_pitot_tube
 ちなみにレドーム先端にもこのようなストレーキがついています。これも上記のものと同様に高迎角時の運動性の確保を目的としているとのことです。黒いのは塗装の剥げですかね笑
Gripen_tail_fin
 尾翼はアンテナがいっぱいですね。グリペンは自己防御システムもしっかりと備えられています。ちなみに機体後半部分はタイのラウンデルと国旗なんですね。あとサメも。

 という感じでグリペンの周囲をざっと見てみました。本物を見てみたい!もっと細かいところまで見たい!という方は、ぜひ現地に赴いてみてください。

 タイ王立空軍博物館の記事の第一回目はこの辺で終わりにしたいと思います。次の記事では別展示館に向かいます。
 そこではなんと、あの日本製航空機が待っていました、、、!!

はじめに
 みなさま、こんにちは。今回の記事は趣向を変えて中華人民共和国(以下中国)が開発した第4世代戦闘機であるJ-10について紹介しようと思います。というのも、今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって中国による台湾侵攻が現実的な問題であるということを再認識し、最近の私は人民解放軍空軍(以下中国空軍)についていろいろと調べてみています。まだまだ十分な情報があるとは言えない中国の軍用機について今回情報を皆さんと調べた結果を共有し、中国軍に対する適切な理解に少しでも繋がってくれれば良いなと考えています。(もし何か間違っていたら遠慮なく教えてください!!)
J-10_5

概要
 冒頭でも説明しましたが、J-10は中国の成都飛機設計研究所が設計し、成都飛機公司が製造する第4世代戦闘機です。愛称は「猛竜(Vigorous Dragon)」で、NATOコードネームは「ファイアバード(Firebird)」とされています。クロースカップルドデルタ翼形式の単発機で、単座型だけでなく転換訓練用の複座機も用意されています。
 中国はロシアのSu-27「フランカー」系統の機体を輸入・国産化していますが、双発・大型であるフランカーを補うため、ハイ・ロー・ミックス的な考え方ではローを担当するのが本機となります。J-10は、現代の戦闘機の例に漏れず空戦だけでなく対地攻撃能力も備えた多用途戦闘機で、ちょうど西側のF-16に相当する戦闘機だと考えることができます。また、中国空軍のアクロバット飛行隊である「八一飛行表演隊」の機体にも採用されており比較的露出度の高い機体ともいえます。
 正確な生産数は不明ですが、令和3年版の防衛白書ではその配備数を488機と推定しており、まさしく中国空軍の主戦力といえるでしょう。

開発経緯
 そもそもJ-10は、当時の主力であったJ-7戦闘機の後継機として、「10号工程」の名のもとに1986年にその開発が進められました。設計にあたったのは成都飛機設計研究所(611研究所)で、製造は成都飛機公司が担いました。
 建国当初から中国の航空技術はそのほとんどをソ連からのものに頼っていましたが、60年代に入って決定的となった中ソ対立の結果、中国はアメリカをはじめとした西側諸国と接近を強め、70年代に入ると続々と西側諸国と国交を正常化しながらその最新の軍事技術の導入を図っていきました。たとえばイギリスとはロールスロイス社「スぺイ」エンジンのライセンス生産の契約を結び、J-7の改良型「スーパー7」の開発にはアメリカのグラマン社が参加することになりました。J-10に関しても西側のエンジンおよびアビオニクスの導入が考えられていました。
 しかしながら、1989年に起きたかの有名な民主派虐殺事件である天安門事件の発生によって中国と西側諸国との関係は一気に悪化し、西側諸国は中国への軍事技術協力から一気に手を引きます。それによって最新のエンジン、アビオニクスの搭載等が不可能となったJ-10についても計画の実現にあたって大きな困難があったものと想像されますが、皮肉なことに関係を修復したロシア製のものを搭載することによってこの問題をクリアし、無事1997年6月2日に試作1号機がロールアウト、翌98年3月23日には初飛行に成功しています。なお、本機の設計には当時アメリカの圧力で開発中止となったイスラエルの「ラビ」戦闘機の影響を受けているともいわれています。
 J-10は2003年に人民解放軍空軍に納入されて運用試験評価が行われ、04年4月13日には初期作戦能力を獲得したとされています。これによって量産が開始されましたが、この最初の本格量産型はJ-10Aと称されています。このJ-10A以降も改良は続けられており、2022年現在の最新型であるJ-10CはAESAレーダーを装備していたりHMDによってオフボアサイト機能を持っていたりとF-16Vに比肩しうる第4.5世代戦闘機へと進化しています。以下に、J-10Aの簡単な諸元を紹介しておきます。

J-10A
全長 16.43m
翼幅 9.75m
全高 5.43m
翼面積 33.1m^2
空虚重量 9,750kg
最大離陸重量 18,600kg
最大速度 M1.8
エンジン AL-31FN×1 (7,850kg/AB12,500kg)
※データには諸説あり

設計
 ここでは、最初の量産型であるJ-10Aを中心にその設計を見ていくことにします。
【全体】
 先に説明したように、J-10は水平尾翼を持たず、デルタ翼とカナード翼を組み合わせたクロースカップルドデルタ翼形式の航空機ですが、安定性の確保のためにベントラルフィンも2枚装備しています。
 胴体設計にはブレンデッド・ウイング・ボディの概念が取り入れられており、操縦面においては意図的に緩和された安定性を4重のフライバイワイヤによる飛行制御システムで管理しています。
 また、エンジンはロシア製のAL-31FNを1基搭載しており、アフターバーナー時には12,500kgの推力を発生させることができます。空気取入口は機首下面に開口しており、高迎角時でも効率的に空気を取り入れることができるようになっています。
 無尾翼デルタ機はエンジン推力に劣る機体が翼面積を確保しながら高速性能を得るために採用される形式で、カナード翼は無尾翼デルタ機の欠点である離着陸性能の悪さを大幅に改善することができます。J-10のエンジン推力はF-16の搭載するF100やF110エンジンと比較しても極端な推力差はなく、両機の間には重量差もあまり無いため、翼面積の大きい分J-10の方が小回りは効くかもしれません。
J-10
【機首】
 J-10Aは、国産の1473型パルスドップラーレーダーを搭載しており、その探知距離は約100km程度と推測されています。レドームは黒く塗られ、機首先端にはピトー管が備え付けられています。
 下の写真は複座機のJ-10ASですが、J-10Aも機首右側に空中給油用のプローブを装備しています。これは試作型・低率初期生産型にはなかったものです。カナードは主翼よりも高い位置に重ならない形で装備されています。
 コクピットはグラス化されておりHOTAS概念も採用、フライバイワイヤによる飛行制御と、十分に第4世代戦闘機の基準を満たしています。
 エンジンの空気取入口はF-16と同様に機首下面に備えられていますが、その形状はF-16と異なり角型となっています。内部は二次元可変式となっており、最大速度は資料によってばらつきがあるもののM2.0前後となっています。
nose
【主翼】
 デルタ翼はその翼端がやや円く整形されており、ラファールやグリペンのような翼端ランチャーは装備できません。翼面積は33.1㎡から39.0㎡まで複数の情報が存在しており、どれが正解か確定はできない状況です。
 下の写真のように前縁にはフラップが装備されており、カナード、フラッペロン(エレボン)とこの3つを組み合わせて高迎角時でも必要な運動性能を確保していると考えられます。
omotemen
【尾部】
 水平尾翼はありませんが、垂直尾翼およびベントラルフィンは装備されています。垂直尾翼付け根にはドラッグシュートが格納されています。
Chengdu_10
【エンジン】
 ロシアのサトゥールン社製「AL-31FN」1基がJ-10の動力源となっています。AL-31シリーズはSu-27系統に採用されている大出力ターボファンエンジンで、FN型はJ-10搭載に合わせて補器類の位置が変更されています。ドライ時には7,850kg、アフターバーナー時には12,500kgの推力を発揮することができ、アメリカのF100やF110と同クラスのエンジンだといえます。
 当初の計画では西側のエンジンを搭載する予定であり、さらに並行してWS-10という国産エンジンも開発されていたものの、西側との関係悪化とロシアとの関係修復の結果AL-31FNの搭載で落ち着きました。ですが、もし天安門事件がなかったとしてもアメリカが10トン級の軍用エンジンを同盟国でもない中国に供給してくれたかどうかは疑問で、結果だけで見ればこれがJ-10にとって最良な選択だったのかもしれません。
【武装】
 J-10は、各主翼に3か所ずつ、胴体中心線上に1か所および胴体各側面に前後1か所ずつ(=計4か所)の総計11か所のハードポイントを持ちます。なお、J-10Aは途中から主翼中央のハードポイントにミサイルを2基搭載できる並列パイロンを装備できるようになっており、その場合のハードポイント数は13となります。
 J-10Aが装備できるミサイルは、対空ミサイルに関してはイスラエルのパイソン3を国産化した短距離赤外線誘導ミサイルであるPL-8と最新のPL-10、イタリアのアスピーデを基にしたセミアクティブレーダー誘導ミサイルPL-11およびアクティブレーダー誘導ミサイルであるPL-12の4種類です。対地目標に対してはYJ-7ミサイル等が装備できるという情報があるようです。主としてミサイルは主翼ハードポイントに、増槽は主翼内側および胴体中心線上のハードポイントに搭載されます。
 また、胴体側面前方のハードポイントにはKL-700A ECMポッドやK/JDC01Aレーザー目標指示ポッドが装備可能となっており、その場合は自由落下爆弾だけでなくレーザー誘導爆弾も使用可能です。もちろんロケット弾なども搭載できます。
uramen
 また、固定武装としてソ連が開発した23mm機関砲であるGSh-23をインテーク下部に装備しています。
gun

各型
★J-10/J-10S
 量産前の試作型です。なおS型の「S」は双座(Shuāngzuò、複座の意)であることを意味しています。
★J-10A/J-10AS
 最初の本格量産型。空中給油能力が付与され、アビオニクスが強化されたタイプで、PL-12ミサイルの搭載が可能となっています。
★J-10AH/J-10SH
 人民解放軍海軍航空兵(中国海軍航空隊)向けのJ-10Aで、「H」はそのまま海(hǎi)を意味しています。
★J-10AY/J-10SY
 中国空軍のアクロバット飛行隊である「八一飛行表演隊」用の機体で、スモーク発生装置等が追加されています。
★J-10B
 最初の大規模な能力向上型。全体として電子戦能力を強化しつつ部分的にステルス性も向上させており、第4.5世代戦闘機にふさわしい機体に変貌しています。初号機は2008年12月に初飛行に成功していますが、完成形はあくまでJ-10Cであったようでその生産数は50機程度にとどまるものと考えられています。
 主な改修点としては、レーダーをパッシブフェイズドアレイレーダーに換装し、風防の前にIRSTを追加、さらに空気取入口をDSI(Diverterless Supersonic Inlet)に変更しています。
J-10_3
 上の写真の手前2機がJ-10B、奥の1機がJ-10ASと考えられますが、空気取入口の形状が全く異なっていることが見て取れると思います。DSIは固定式ではあるものの構造が単純(形状は複雑ですが)で軽量化でき、かつエンジンブレードを隠してくれるためステルス性の向上にも寄与します。
 また、正面のレーダー反射面積を低減させるためにレーダーの取り付けに際して角度がつけられており、それに合わせて機首形状が変更されていることにも気づいてもらえるかと思います。機首のピトー管も移設されています。さらに、風防の直前にはIRSTが標準装備として追加されていることも写真から判別できます。ちなみにHUDも大型化されています。
J-10B_with_PL-10_and_PL-12
 そのほか細かい変更点を挙げれば、垂直尾翼が少し高くなり、上部には細長い長方形のものが追加されています。これは通信用およびECM用のアンテナとのことですが真偽は不明です。
 加えて、カナード直前および尾部垂直尾翼付け根に涙滴型のフェアリングが追加されていますが、これはレーダー警報装置か何らかの電子対抗装置と思われます。そのほかアンテナがいくつか追加されたり形状が変更されていたりします。ちなみにベントラルフィンも大型化されています。
 エンジンは改良型であるAL-31FN-M1を搭載しており、推力がやや向上したのに加えFADEC機能が追加されたものと思われます。なお試作機には国産のWS-10Aエンジンも搭載されてテストされていたようですが、量産機には採用されなかった模様です。
★J-10C
 2022年現在運用中のJ-10のなかで最新のタイプがこのJ-10Cです。J-10Bの完成度を高めたともいえる本型式は、レーダーをパッシブ式のものからアクティブ式のフェイズドアレイレーダーであるKLJ-7Aに換装し、最新式のアクティブレーダー誘導ミサイルであるPL-15の搭載能力を獲得しました。
 2013年12月に初飛行が行われ、2016年には中国空軍での運用が始まっています。生産数は2020年の時点で既に200機に迫っているとの報道があります(*1)。
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 外見上のJ-10Bとの差異は少ないですが、スパイン上の垂直尾翼付け根のやや前にPL-15ミサイルとの中間誘導データリンク用のアンテナが追加されていること、尾部にあった涙滴型のアンテナが垂直尾翼上部に移設されていることが挙げられます。
 また、HMDの使用も可能で、その場合はPL-10の能力を最大限活かすことができます。
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 エンジンはJ-10Bから引き続いてAL-31FN-M1(-M3との情報あり)を搭載していましたが、途中生産型から国産のWS-10Bエンジンを搭載している模様です。中国は、今まで国産エンジンは双発機に限定して採用していましたが、これで単発機にも搭載されることとなり信頼性が向上していることを伺わせます。
(*1)https://www.zaobao.com.sg/realtime/china/story20200516-1053779
★J-10CE
 パキスタン向けのJ-10Cです。2022年3月に初めて6機が納入され、最終的には25機を購入する予定とのことです。
 しかしながら中国空軍向けのJ-10Cに付いている背部のアンテナが無くなっており、能力がダウングレードされている可能性はありそうです。ちなみに空中給油プローブもオミットされているようです。エンジンはノズルの形状からWS-10系統のものが搭載されているものと推察されます。
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出典:https://timesofislamabad.com/13-Mar-2022/pakistan-s-new-j-10ce-fighters-outclass-us-f-16-and-indian-rafales-report

まとめ
 J-10は、中国にとってソ連機の影響から離れて設計し、完成した初めての戦闘機といえます。その開発には紆余曲折あったものの、度重なるアップグレードを経て第4.5世代戦闘機としてじゅうぶんな能力を備えているとみなすことができるでしょう。
 電子装備に関しては、正確な情報を得ることは難しく、その能力を正しく把握することはできないものの、最新のJ-10CについてはAESAレーダーを装備し、IRSTを備え、各種電子戦装備を持ち、PGMを搭載可能ということは間違いありません。
 飛行性能に関しては、軽量な機体に大推力のエンジンを搭載しており、翼面積も大きいことから決して侮れないものを持っていることと思います。
 もしJ-10の欠点を挙げるとするならば、単発機故の航続力の短さや、そのために増槽にハードポイントを取られてしまうこと、またステルス性能の不足があるかもしれませんが、あくまで本機は補助的な役割の戦闘機であって上記の欠点はフランカー系統の機体やJ-20でじゅうぶんにカバーし得る問題です。
 J-10は中国空軍の「量」はもちろん「質」の部分もしっかりと担保し得る非常に優秀な補助戦闘機であるとみなすことができるでしょう。

※今回の記事に使用した写真は出典の明記が無い限りはwikipediaの著作権フリーのものおよび中国国防部ウェブサイト(http://www.mod.gov.cn/)より引用しています。

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