WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

日本海軍(IJNAF)
・A:艦上戦闘機
 96式二号艦上戦闘機(A5M2/Claude)
 零式艦上戦闘機11型/21型(A6M2/Zeke)
・C:艦上偵察機
 二式艦上偵察機(D4Y1-C/Judy)
・D:艦上爆撃機
 彗星(D4Y/Judy)
・E:水上偵察機
 零式水上偵察機(E13A/Jake)
 瑞雲11型(E16A1/Paul)
・G:陸上攻撃機
 一式陸攻(G4M),
 一式陸攻24型(G4M2a)
・H:飛行艇
 97式飛行艇(H6K/Mavis)
 二式大艇12型(H8K2/Emily)
・N:水上戦闘機
 二式水上戦闘機(A6M2-N/Rufe)
・P:陸上爆撃機
 銀河11型(P1Y1/Frances)
・S:夜間戦闘機
 月光11型(J1N1-S/Irving)

日本陸軍(IJAAF)
・戦闘機
 91式戦闘機
 97式戦闘機(キ-27/Nate),
 一式戦闘機一型(キ-43I/Oscar I), , 二型(キ-43II/Oscar II)
 二式戦闘機一型(キ-44I/Tojo I), 二型(キ-44II/Tojo II)
 三式戦闘機一型(キ-61I/Tony I), 二型(キ-61II/Tony II)
 四式戦闘機(キ-84/Frank),
 五式戦闘機一型(キ-100I), 二型(キ-100II)
・軽爆撃機
 97式軽爆撃機(キ-30/Ann)
 98式軽爆撃機(キ-32/Mary)
 99式双軽爆撃機(キ-48/Lily)
・重爆撃機
 97式重爆撃機(キ-21/Sally)
 100式重爆撃機(キ-49/Helen)
・襲撃機
 99式襲撃機(キ-51/Sonia)
・偵察機
 97式司令部偵察機(キ-15/Babs)
 98式直協機(キ-36/Ida)
 99式軍偵察機(キ-51/Sonia)
 100式司令部偵察機(キ-46/Dinah),
・輸送機
 97式輸送機(キ-34/Thora)
 100式輸送機(キ-57/Ki-57)
 一式貨物輸送機(キ-56/Thalia)

エンジン一覧(24/12/16追記)
 https://docs.google.com/spreadsheets/d/1-sdBUJIxKHcDvH3tNYwHa3mN64BLQBEfA0218Q44W9E/edit?usp=sharing

はじめに
 みなさんご無沙汰しております。今回の記事は、考察というよりも疑問に思ったことがあったのでそのことについて書いてみます。
 というのも、『わが国航空の軌跡 研三・A-26・ガスタービン』という研三の性能に関する、当時の報告書関係を丸載せしたほぼ一次資料ともいえるかなり詳細な資料があるのですが、その第7章における水平最大速度の解析について、ピトー管の位置誤差修正の計算に誤りがあるように思えるのです。そして、結果として699.9km/hという最高速度も過大であったように思えるのです。
 もちろん私の思い過ごしであればよいのですが、読者の皆さんの意見を伺うことができればと思い投稿いたします。
 ただしこの記事は、その議論を行うにあたっての前提条件の説明になり、本番は次回の記事になります。知っているという方は特に読まなくても大丈夫です。

飛行機の様々な速度
 まずは、飛行機の様々な速度の表し方について説明します。

 一般に、航空機の速度の表し方には以下の5種類が存在します。
・IAS (指示対気速度 "Indicated Airspeed"):速度計で読み取った速度。
・CAS (較正対気速度 "Calibrated Airspeed"):IASに計器の誤差(=器差)やピトー管装備位置や飛行姿勢等による誤差(=位置誤差、P.E. "Position Error")を修正したもの。
・EAS (等価対気速度 "Equivalent Airspeed"):CASに対し、空気圧縮性の影響による誤差を補正したもの。
・TAS (真対気速度 "True Airspeed"):EASに対し空気密度の補正をしたもの。空気の流れに対する本当の速度。
・GS (対地速度 "Ground Speed"):TASに対し風の影響を加えたもので、実際の移動速度を表す。

速度換算の流れ

 普段私たちが「この飛行機の最高速度は〇〇km/hだ」、と言っているのはTASを指しますが、その計算にはパイロットが操縦席から直接確認できるIASからCAS、EASという段階を踏む必要があるのです。

 IASからCASへ換算するときに必要となるのが、P.E.の測定試験です。これには、通常のピトー管に加え影響が少ない位置にピトー管を取り付けて計器速度の差を測定する方法や、決められたコースを往復飛行して求めた速度と計器速度とを比較する方法などがあります。P.E.は速度や飛行姿勢によって異なるので、測定はなるべく幅広い速度で、水平飛行時や上昇飛行時など様々な姿勢で行うことが必要となります。

 CASから空気の圧縮性の影響による誤差を補正したものがEASとなります。高速になればなるほど空気の圧縮性の影響が効いてくるため、速度計に表示される速度は実際のものよりも過大に表示されます。M=0.3まではCAS=EASとして問題ないのですが、それ以上の速度では圧縮性の影響を考慮する必要があります。

 TASはEASに空気密度比の補正を加えることによって計算します。というのも、ピトー管を利用した速度計は、気圧760mmHg、大気温度15℃のときの対気速度を表すように設定されているからです。したがって、TASからEASへは以下の式によって計算できます。

(1/2)*ρ0*EAS²=(1/2)*ρ*TAS²
EAS²=TAS²*(ρ/ρ0)
EAS=TAS*√(ρ/ρ0)・・・①

逆にEASからTASを求める場合は、
TAS=EAS/√(ρ/ρ0)・・・②

となるのです。なお、

ρ0・・・標準大気状態における地上の空気密度
ρ・・・飛行高度における空気密度

また、空気密度は気圧と温度の関数ですので、

ρ/ρ0=(p/760)*(288/T)・・・③

p・・・飛行高度における空気圧力(mmHg)
T・・・飛行高度における外気温(K)

と表すこともできます。なぜTASだけ詳しく説明するかというと、次の記事の大事なところで出てくるからです。

飛行試験データの標準状態への換算方法
 今回の話は飛行試験結果の解析の話ですから、当時使われていた試験結果を標準大気状態に換算する方法も説明しておきます。

 水平速度の計測時に、計器速度の外に気圧高度と外気温も測定しておきます。そうすれば、その時のTASは②、及び③式で計算することができます。しかしながら、これはあくまでその時の大気状態における真速度ですので、標準大気状態で表さなければ他機や、同型機の別の日の試験結果との比較はできません。

 そこで当時主に行われたのが、気圧高度と密度高度の中間をとる「ハーフ・アンド・ハーフ」方式です。これは、飛行試験時の気圧と外気温からその時の密度高度を求め、気圧高度と足して2で割った高度を標準高度とするものです。
 気圧高度をZp、密度高度をZρとすると、密度高度は以下の式で表すことができます。

Zρ≒Zp+(測定気温-標準気温)*36.15・・・④

 例えば、気圧高度Zp=3000m、外気温が11℃であったとしたら、④式より、

Zρ=3000+{11-(-4.5)}*36.15≒3560

したがって、標準大気状態において3000+(560/2)=3280mの時の性能とみなすことになります。

以上が前提条件の説明となります。次の記事では、具体的に研三の性能解析の何に疑問があるのか説明していきたいと思います。

はじめに
 さて、前回の記事では今回の議論にかかわる前提条件を説明しましたが、この記事では実際の性能データをもとに論を進めていきたいと思います。

 改めて今回の記事の趣旨ですが、『わが国航空の軌跡 研三・A-26・ガスタービン』という研三の性能に関するかなりほぼ一次資料丸載せの詳細な資料の、その第7章における水平最大速度の解析について、ピトー管の位置誤差修正の計算に誤りがあるようにどうしても思えるのです。結果として699.9km/hという最高速度も過大のように思えてしまって、ぜひ皆さんの意見を聞きたいと思っています。

研三の位置誤差検定試験
 『わが国航空の軌跡 研三・A-26・ガスタービン』第7章によると、1943年12月10日、川崎航空機工業岐阜工場にて基線長3520mの直線コースを設定し、その往復時間を測定することによって位置誤差を測定する試験が行われました。速度を変えながら3往復の飛行が行われ、各計器速度と、往復時間から得られた真速度を標準速度に直したものとを比較し、位置誤差を求めたようです。なお、このときの自記速度計は空気の圧縮性の影響による誤差を修正したものであるとのことです。

オリジナルP.E.
図1
 その結果として『わが国航空の軌跡』に掲載されているピトー管位置誤差グラフに、検定試験時に計測された3回の飛行結果を重ねたものが上図となります。しかしながら、この位置誤差直線が、どうにも飛行試験結果に相関していないように見えます。
オリジナル修正P.E.
図2
 3つの点から回帰直線を作成すると、赤点線のような線を描くことができますが、なぜこのような線にならなかったのでしょう。非常に謎です。

 謎ではありますが、まあそれはいったん置いておいて、ひとまずこの位置誤差線をもとに研三が699.9km/hを計測したときの飛行試験成績を再計算してみます。このときの飛行諸元は以下のようなものとなります。

計器高度:3500m
計器速度:640km/h
外気温:-6℃

※実はこの計器速度は『わが国航空の軌跡』には載っていません。かかみがはら航空宇宙博物館で研三の特別展があったときのパネルで紹介されていたものです。

前回記事の式④より密度高度は3563m、よって修正高度は3532mと計算されますが、『わが国航空の軌跡』ではこれを3527mとしています。式④は概算式なので、5m差ならまあ誤差の範囲でしょう。

続いて、式②をもとに修正TASを求めます。上図より計器640km/h時の位置誤差は約-54.5km/h付近に読むことができますので、

CAS=640-54.5=585.5km/h

研三の速度計は空気圧縮性の誤差を修正してあるとされていますので、CAS≒EASとみなせます。
また、高度3527mにおける空気密度比は約0.7026ですので、

TAS=585.5/√0.7026=698.5km/h

公式の計算とは1.4km/hの違いがありますが、誤差は0.002%なので十分許容範囲と考えて良いでしょう。細かい誤差は位置誤差の読みとりや空気密度比の計算精度によって生じたと思われます。すなわち、上記のような計算をして699.9km/hは得られたとみてほとんど間違いないと考えます。

計算ミス?検定試験時の標準速度について
 ようやくここからが本番の本番です。研三の最高速度は上記のような計算で出されたものだと思われますが、その前提となる位置誤差の計算に間違いがあったのではと疑っています。

 具体的に見てみましょう。冒頭で述べたように、研三の位置誤差測定試験では片道3520mの直線コースを往復する飛行を3回行っているのですが、その一往復目を例にとると、

 計器速度 気圧高度 外気温
往路  510km/h  395m  7℃
復路  500km/h  400m  7℃
往復時間 56.18秒

前回記事④式より、
   修正高度  √ρ/ρ0
往路  297.5m    0.986
復路  302.5m    0.986

この時の真対気速度は、
3520/(56.18/2)*3.6=451.1km/h

続けて、この真対気速度を標準高度300mにおけるEAS(=CAS)に換算し、IASとの差を出すことによってはじめて位置誤差を求めることができます。
この時の計算式は、前記事①式より、EAS=TAS*√(ρ/ρ0)となりますので、

451.1*0.986=444.8km/h(A)

とならなければならないはずです。
しかしながら、『わが国航空の軌跡』では何故か真速度を密度比でかけずに割っており

451.1/0.986=457.5km/h(A')

としているのです。
となると位置誤差は、

(A)  444.8-505= -60.2km/h
(A') 451.1-505= -53.9km/h

となり、6km/h近くの差が生じてしまいます。しかも、2往復目、3往復目の飛行でも同様の計算が行われているのです。
 そこで、①式を用いて3回の飛行時の位置誤差を再計算し、回帰直線で表したものが下図の青線です。なお、比較のために図1の赤線も残しています。
再計算P.E.
図3
 いかがでしょうか。かなりの差が生じていることが見て取れるかと思います。そこで試しに青線を基にして研三の最高速度を再計算してみます。

計器640km/h時の位置誤差は、グラフから-67.5km/h付近となりますので、

CAS=EAS=640-67.5=572.5km/h

よって、

TAS=572.5/√0.7026=683.0km/h

となり、最高速度683km/h@3527mを得ることができました。

 ところでこの数字、何かに似ていませんか?そうです。従来、研三の最高速度の速報値ではないかと言われていた682km/hに限りなく近いのです。これは単なる偶然なのでしょうか?

まとめ
 というわけで結論です。研三の位置誤差検定試験において、TASからEAS(=CAS)を求める計算が誤りだったのではないか?というのが私の今回の疑問です。取り越し苦労であればそれに越したことはないのですが、どなたかこの辺りに詳しい方がいらっしゃいましたら何か教えていただけると幸いです。
 また、試しに位置誤差を再計算した結果得られた最高速度は、従来速報値と言われていた682km/hにかなり近いものとなりました。すなわち、この速報値の方がその後公式の報告書にて報告された数値よりも正しかったかもしれないのです。

 これはただの妄想でしかありませんが、もともと位置誤差を正しく計算していたにも関わらず、報告書作成時にデータをまとめ直しているときに計算ミスが発生し、誤った数値が公式のものとして残ってしまったのかもしれません。

 ちなみに、なぜもともとの位置誤差の直線の傾きが実測された3往復分の飛行データと相関していないのか、というもう一つの疑問も残されています。こうじゃないか?というお考えがある方は、ぜひコメントいただけると嬉しく思います。
 今回も最後までお読みいただきましてどうもありがとうございました。

参考文献
岡村純 編『航空技術の全貌 上』(1953)
新谷春水『航空戦の技術』(1942)
日本航空学術史編集委員会『わが国航空の軌跡研三・A-26・ガスタービン』(1998)
溝口宗彦『飛行機精能試験解説』(1944)

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