WW2航空機の性能:WarbirdPerformanceBlog

第二次大戦中の日本軍航空機を中心に、その性能を探ります。

※私は軍用機は好きですが戦争は嫌いです。当ブログ内の記事が少しでも皆さんの国防や航空について考えるきっかけになれば幸いです。

1.はじめに
 みなさま、ご無沙汰しております。前回記事の更新から約3か月が空いてしまいましたが、2022年一発目の記事は、第二次大戦中の機体ではなく我が国初の超音速機「三菱T-2/F-1」を実機の写真を使いながら紹介してみたいと思います。今回紹介するのは浜松、各務原、小松の航空博物館に展示されている機体たちです。既に退役してから15年以上が経過している本機ですが、国産初の超音速ジェット機であり、かつ戦後、航空活動の禁止によって離されてしまった他国との航空技術の差を埋めることに貢献した機体でもあります。この経験はきっとF-2の開発につながったはずですし、そして次期戦闘機へとつながっていくことでしょう。
 あわせて、副題のとおり英仏共同開発の攻撃機「SEPECATジャギュア」ともいろいろと比較していきたいと思っています。同様の目的、同様のエンジンを持ちながらもジャギュアにやや遅れて開発されたT-2/F-1は、そのよく似た外見からジャギュアの「模倣」ではないかと言われることがあります。果たしてそれは本当なのでしょうか?この疑問もこの記事の中で考えていければと思います。

2.T-2とは?
 そもそも、T-2やF-1とはどのような航空機なのでしょうか。まずは簡単な来歴の紹介からスタートしたいと思います。(もう知っているという方はスキップしてくださいね。)
T-2BI
 F-1の原型機となったT-2は三菱重工業による超音速高等練習機で、1960年代半ばから開発が始まった機体です。60年代に入ると航空自衛隊の主力戦闘機は、亜音速のF-86から一足飛びにマッハ2級のF-104へと更新が進められていましたが、そこで問題となったのはパイロットの養成でした。というのも、当時の戦闘機パイロットの養成課程は、単発プロペラ機であるT-34「メンター」から始まって国産ジェット練習機「T-1」、米空軍初の実用ジェット戦闘機P-80を原型とした「T-33」を経て朝鮮戦争で活躍した名戦闘機「F-86」へ移行し、経験を積んだうえで最新鋭の「F-104」に至るものとなっていましたが、F-86とF-104との性能差があまりにも大きすぎ、必然的にその間を埋める高等練習機が必要とされるようになりました。
 その機種選定は1965年に始まり、アメリカで運用されていた超音速練習機T-38「タロン」も有力な候補のひとつでしたが、最終的には自主国産の方針で固まりました。66年にはこの新型国産練習機に対する要求がまとめられ、67年9月には三菱案の採用が決定されました。採用されたのはあくまで三菱案でしたが、本プロジェクトは国内各メーカーの総力を結集して進められることとされ、三菱のみならず富士重、新明和、日本飛行機、川崎の各社から技術者を集めて「ASTET(Advanced Supersonic Trainer Engineering Team)」と呼ばれる設計チームが結成されました。(ただし川崎はのちに抜けることになります。)
 基本設計が完了した69年にはASTETのメンバーは各所属会社に復帰、1970年3月には初号機の組み立てが開始され71年4月にロールアウト。7月20日には初飛行に成功し、11月19日には音速を突破しています。これにより日本は晴れて世界で6番目の超音速機開発国となったのです。
 T-2の試作機は計4機が製作されました。1号機は1971年12月15日に技術研究本部に納入され、翌12月16日から74年3月31日までの間にこの4機で合計612回の飛行試験を実施。同7月には部隊使用承認が与えられ、量産型1号機は75年3月に航空自衛隊へ引き渡されました。T-2は最終号機が納入された1988年までに試作機4機を含む全96機が生産されましたが、量産機のうち28機は訓練課程の前半で使用するための「前期型」と呼ばれるもので機関砲と火器管制レーダー装置を搭載していませんでした。一方で62機は「後期型」と呼ばれる戦技訓練用の機体として完成し、機関砲と火器管制レーダー装置を備えています。なお、残りの2機は支援戦闘機F-1のプロトタイプに改造されました。なお、この96機のうち、少なくとも9機が運用中の事故で失われています。
T-2CCV
 T-2は飛行教育部隊である第21、22飛行隊に配備され数多くのファイター・パイロットの卵たちを育成したのみならず、飛行教導隊にも配備されアグレッサー機として航空自衛隊の技量の向上に大きく貢献し、さらには2代目ブルーインパルスとして国民にも広く親しまれました。90年代に入ると耐用年数を迎えたものから順次退役が始まり、2004年にはT-2による操縦教育は終了。飛行開発実験団所属の機体も06年3月に退役し、T-2はその翼を永遠に休めることになりました。

3.F-1への発展
 F-1は当時の航空自衛隊の分類では「支援戦闘機」とされる機体ですが、これを「主力戦闘機を支援する戦闘機」というふうに捉えてしまうと不十分です。実態としてはいわゆる「攻撃機」や「戦闘爆撃機」として認識するべきでしょう。専守防衛を国是とする日本では、安易に「攻撃」という言葉が使えなかったのです。
F-1(2)
 さて、T-2はレーダーやアフターバーナーを備えており、ひととおりの対空・対地戦闘が可能であるなど、支援戦闘機となり得る潜在能力を持つ練習機として開発されました。折しもT-2が開発中であった1968年に次期主力戦闘機としてF-4EJが採用され、その一方で支援戦闘機として運用されてきたF-86Fの退役が見込まれていました。しかしながらF-86Fの退役分をF-4EJで補うのは予算的にも難しく、T-2を支援戦闘機へ発展させる方針が1972年10月の国防会議にて決定されました。これを受けて、前項でも少し触れたように量産機の2機(第2、3号機)がF-1のプロトタイプとして転用されることになったのです。
 支援戦闘機への改造といっても、機体はT--2そのままで特別な改設計などはなされませんでした。改造内容は後席を無くして各種電子装備を搭載するなどアビオニクスの強化が主体となっており、同時期に開発された国産対艦ミサイルであるASM-1の携行能力を持っていることがF-1の大きな特徴となっています。(ただしASM-1の制式採用は1980年)
 この支援戦闘機型はもともと「FS-T2改」と呼称されていましたが、その初号機の初飛行は1975年の6月3日に行われました。部隊使用承認は約1年半後の76年11月に与えられ、晴れて「F-1」となった本機の量産初号機は77年9月から三沢基地の第3飛行隊で配備が開始されました。次いで同じく三沢の第8飛行隊、築城の第6飛行隊にも順次F-1が配備されていきました。F-1の最終号機は1987年に航空自衛隊に納入され、合わせて77機の量産機が生産されました。
 1997年に入ると老朽化による退役が始まり、まずはF-4EJ改、次いでF-2に支援戦闘機の任務を譲り、ついに2006年3月その全機が退役となりました。なお、運用中の事故により少なくとも5機が失われています。

4.SEPECAT「ジャギュア」
 続いて、比較対象として登場してもらうジャギュアについても簡単に紹介しておきます。ジャギュアは英仏共同開発の双発ジェット攻撃機で、その両国ではすでに退役していますがライセンス生産も行われたインドでは2022年現在でも未だに現役の機体です。ジャギュアの機体開発はイギリスのBAC社とフランスのブレゲー社による合弁会社「SEPECAT」(Société Européenne de Production de l'avion Ecole de Combat et d'Appui Tactique)社によって行われ、同様にエンジンについても英ロールスロイス社と仏チュルボメカ社の合弁会社である「ロールスロイス・チュルボメカ」社によって開発されました。
Jaguar_DF-SD-05-05511
 そもそもジャギュアの開発計画は、英仏両国がそれぞれ独自に高等練習機を求めた1960年代初めに遡ることができます。イギリスはフォーランド社の「ナット」およびホーカー社「ハンター」の後継機を、フランスはフーガ社の「マジステール」練習機と第一線の戦闘機であるダッソー「ミラージュIII」の間をつなぐ練習機を、それぞれ1970年代に導入したいと考えていました。
 フランス空軍は1963年にECAP(支援練習機)としてその要求をまとめ、のちにウーラガンやミステールの後継攻撃機の必要性からこの計画はECAT(戦術戦闘支援練習機)と改称されました。これは比較的シンプルかつ安価な機体で地上攻撃能力を備えたものでした。これにフランスの航空機製造会社5社が応じ、1964年の12月にはブレゲー社の「Br.121」が勝者に選ばれました。そのころドーバー海峡の反対側でも「AST362」として必要とされる航空機の要求がまとめられていましたが、これはフランス側の求めるものよりもずっと高性能のもので、フォーランド社やイングリッシュ・エレクトロニック社の案は可変翼まで備えていたといいます。
 一方、こういった動きと同時並行的に、1964年初めには両国の間で共同開発の話がどうやら持ち上がっていたようです。航空機の開発は時代とともに多額の費用が必要となるようになり、一国で行うには負担が大きくなっていました。特にイギリスは当時軍事費の大幅な削減が行われ、多くの機体が開発中止の憂き目に遭っていました。他方、フランスは自国のみでの開発も可能な体制ではありましたが、イギリスのエンジン技術が魅力であったともいわれています。
 両国はともに新たな航空機を求めてはいましたが、その要求性能には簡素な練習機兼攻撃機を望むフランスと高性能な練習機が欲しいイギリスとの間で差がありました。その擦り合わせの結果、性能に関してはフランスが譲歩する一方で機体設計に関してはBr.121を基にするということでイギリス側が譲歩し、1965年5月17日、両国は共同開発に関する合意文書に署名したのです。この合意は翌6月のパリ航空ショーで公式に発表され、この新型軍用機の名前は「ジャギュア」と名づけられました。前述したように、66年5月にはフランスにてSEPECAT社が、6月にはイギリスにてロールスロイス・チュルボメカ社がそれぞれ設立され、本格的な開発がスタートしたのです。
 ちなみに、この共同開発の合意ではジャギュアに加えてもう一機種、可変翼機「AFVG」の開発も計画されていました。イギリスではBAC社の超音速機爆撃機TSR-2が1965年4月に開発中止となり、その代替としてF-111Kの導入が66年に決定しましたがこれも68年に財政難のためキャンセルとなり、イギリスはこのAFVG計画をその代替と考えていました。しかしながら、もともとあまりこの計画に乗り気でなかったフランスは資金不足を理由に撤退を表明しておりAFVG計画は頓挫してしまいます。そのためにイギリスも次第にジャギュアに攻撃機的性格を求めていくようになっていきました。(ちなみにこのAFVG計画は最終的には形を変えてパナビア「トーネード」として結実します。)
 ジャギュアの試作機は計8機が製作されましたが、その第1号機は、1968年4月にロールアウトし、9月8日に初飛行を行いました。これは「ジャギュアE」と呼ばれるフランス空軍向け複座機でした。また、同空軍向け単座機「ジャギュアA」は69年3月29日に初飛行しています。これに続いてイギリス空軍用の単座型「ジャギュアS(のちGR.Mk.I)」は69年10月12日に、複座型「ジャギュアB(のちT.Mk.I)」は最後の試作機として71年8月30日にそれぞれ初飛行に成功しています。ちなみに69年11月14日にはフランス海軍空母搭載型の「ジャギュアM」の試作機が進空していますが、このタイプは実用化されませんでした。
Jaguar_EB_Equador_1986
 もともとジャギュアは65年5月の合意では英仏それぞれ150機ずつの合計300機が生産される予定で、イギリス向けは全て練習機型のジャギュアBとなるはずでしたが、前述のAFVG計画の中止により最終的には以下のようになりました:すなわち、フランスはジャギュアAが160機とジャギュアEを40機の計200機、イギリスはジャギュアSが165機とジャギュアBが38機の計203機です。量産機の引渡しは1972年5月のフランス空軍を皮切りに順次進められていきました。その一方で、ジャギュアはあまりにも本格的な攻撃機となり過ぎたため、本来の目的のひとつである練習機としては用いるには性能も価格も過剰となってしまいました。そのため、イギリスは「ホーク」を、フランスは「アルファジェット」をそれぞれ開発し、ジャギュアの複座型は転換訓練機としての限定的な使用に留まりました。
 ちなみにジャギュアは海外への輸出にも成功しています。先述したインドではライセンス生産も行われたほか、エクアドル、ナイジェリア、オマーンでも運用され、その総数は573機にも上るとされています。

5.諸元の比較
 本題に入る前に、もう少しお待ちください。簡単にT-2/F-1とジャギュアの諸元を比較しておきましょう。
T-2,F-1,Jaguar比較表
 この表を見てもらえばわかるように、両者はサイズが近くエンジンも同一のものを使用しているので(IHIによるライセンス生産)、その性能も似通っています。
 また、簡易的な年表も作ってみましたが、ジャギュアの開発はT-2/F-1におおむね2~3年先行していたことが分かります。
簡易年表
 両機の差をもう少し視覚的に分かりやすくするためにここで助っ人に登場してもらいたいと思います。1/72ダイキャストモデルくんです。F-1はホビーマスター社のもので、ジャギュアはCorgi社のT.Mk.4です。両者がきちんと実機に忠実につくられているとするならば、このようにF-1のほうがややスリムな印象です。逆にジャギュアは少しのっぺりしているように感じられますが、基本的なコンフィギュレーションは両者とも非常に似通っていることが分かります。
0001
0002
 ということで、次に実機の写真を用いて細部の設計を確認してみようと思います。もちろんダイキャストモデルくんにも引き続き登場してもらいます。

6.細部設計
※これから出てくる機体の写真は、F-1は浜松広報館の「90-8225」および「90-8227」号機。T-2は小松航空プラザの「99-5163」号機とかかみがはら航空宇宙博物館の「19-5173」および「29-5103」号機です。

(1)機体前部
 まずはT-2とF-1の機体前部から見てみましょう。F-1は単純にT-2の後席部分を覆っただけでなんの改設計もしていないことが分かります。本来であれば操縦席周りを改装して視界の改善を図るべきなのでしょうが、予算および時間的制約から叶わなかったようです。
T-2機首
F-1機首(2)
 機首左側のちょうど「173」や「227」の数字の下には20mmバルカン砲の発射口が確認できます。
F-1機銃口
近くで見ると、こんな感じです。ちなみにT-2前期型には固定武装、レーダーがありませんが、後期型と重量重心を合わせるために同じ位置にダミーウェイトが載せられています。
 数字の「2」の左側にあるのは迎角発信機です。これによって感知したAOAをコクピットに表示し、リミットを迎えるとスティックシェイカーが作動します。下にもっと大きな写真を載せておきます。
T-2AOAプルーブ
 ちなみに、下の写真のようにF-1の後席部分には電子装置が追加で備えられています。具体的には慣性航法装置、レーダー警戒装置、管制計算機、オートパイロットなどがここに追加されました。
F-1後席
 また、機首レドーム内には、T-2後期型についてはJ/AWG-11レーダーが搭載されていますが、F-1にはJ/AWG-12が搭載され、より精密な対地攻撃機能と航法機能および対艦ミサイルの運用能力が追加されました。
F-1機首
 機首の電子機器室にはUHF無線機、TACANなどが搭載されており、T-2から追加されたものとしては電波高度計や対気諸元計算機があります。

 ところで、F-1は後席部分が無くなっていますが、ジャギュアの単座型は逆に後席を残しています。というよりは単座型の座席の前に座席を追加したと言うべきでしょうか。そのためジャギュアの複座型は機首部分には十分な機器搭載スペースが無いように思えます。
Jaguar機首
 実はT-2/F-1とジャギュアの大きな違いに、レーダー搭載の有無があります。本来の任務ではない対空能力を割り切ったジャギュアには、インド向けのごく一部を除いてレーダーを搭載していません。その代わり単座攻撃機型にはレーダーレーザー測距装置やカメラが備えられています。
 ちなみにジャギュアのアビオニクスは英仏でそれぞれ大きく異なっており、一般的に言ってイギリスの方が充実しています。固定武装はT-2/F-1と大差ない位置に30mm機関砲が搭載されていますが、T-2/F-1とは違って、ジャギュアはB型を除き左右に計2門を装備しています。なお、イギリスはアデンMk.4、フランスはDEFA553とそれぞれ国産のものを持ちます。
機体前部を見る限り、T-2/F-1とジャギュアが特別似ているということはなさそうです。

(2)空気取入口
 空気取入口は非常に興味深いポイントです。T-2/F-1は下の写真のように6°の角度を持った固定ランプ式で、境界層も分離しています。側面には6つの補助空気取入口を持ちます。
F-1インテーク上から
F-1インテーク横から
 一方で、ジャギュアの空気取入口は以下のようにランプがありません。もともと試作機にはT-2/F-1と同様に固定ランプが設置されていましたが、量産機では取り払われてしまいました。ちなみに補助空気取入口の形状も少し異なります。空気取入口と胴体の間には隙間があり、境界層の影響を除去しています。
Jaguar空気取入口
 T-2/F-1とジャギュアの最高速度はともに高度36000ftでM1.6とされていますが、ジャギュアについてはM1.5とのデータもあります。空気取入口の形状を見ると、どちらかといえばT-2/F-1は高速重視、ジャギュアは低速・航続距離重視の設計であると言えそうです。空気取入口面積は同じエンジンを使用しているため大差はなさそうです。

(3)胴体
 T-2/F-1も他の超音速機の例に漏れずエリアルールを採用しています。設計に際してはマッハ1.4を基準にしたともされているようです。
0003
 合わせて脚部の様子もご紹介します。なお、整備補給上の観点からタイヤはF-104と同じものを使うように要求段階から指示されていました。
F-1前脚
F-1主脚とエアブレーキ
 脚の構造はジャギュアとは見た目から全然異なるのですが、エアブレーキの位置はほとんど同じです。最適な位置を求めた結果の偶然なのか、それともそうでないのかは分かりません。あとはお尻につけるか背中につけるかしかないとは思いますが。その辺りに詳しい方がいたら是非教えてください。
Jaguar脚
Airbrake_Jaguar_(MAA)
なお、ジャギュアのエアブレーキにはご覧のように穴がいくつか空いています。

(4)主翼
 T-2/F-1の主翼は前縁後退角42.29°、アスペクト比3.0、翼面積21.17㎡のクリップドデルタ翼で、LERX、境界層フェンス、ドッグトゥースを備えています。なお高翼配置で下反角は9°です。
T-2主翼
 LERXは主翼付け根にある三角形の主翼の延長部分のことで、単純に翼面積が増えるというだけでなく、大迎角時に渦を発生させて主翼上面の気流の剥離を抑制する効果があります。ドッグトゥースは主翼前線部の切り込みのことで、犬の牙のように見えるからこのような名前になったんだと思いますが、これも同様に渦を発生させて気流の剥離を抑え翼端失速を防止する効果を持ちます。
 このT-2のLERXにはおもしろいエピソードがあります。試作時にはもっと大面積のLERXを装備していたのですが、逆に効果が過剰すぎて発生した渦流が水平尾翼に影響してしまい、低速時の安定性に悪影響を与えてしまったそうです。その対策としてLERXは縮小され、渦流をコントロールするために境界層フェンスが追加されたのです。
T-2後ろより(2)
 斜め後上方からの写真です。ここから見ると、主翼上部に立てられた境界層フェンスがよく分かるかと思います。水平尾翼が主翼よりも下に付いていれば、こんなことにはならなかったかもしれませんね。

 T-2/F-1の大きな特徴は、ロール方向の操舵にエルロンではなくスポイラーを使用していることです。これによって主翼後縁に広くフラップを設けることができ、翼幅の小さなT-2/F-1には好都合となります。
 この方式はスポイラーとエルロンを合わせた造語である「スポイレロン」とも呼ばれ、すでに三菱では小型ビジネス機のMU-2にてこの方式は経験済みだったものの、T-2の開発にあたってフラップの位置によってスポイラーの小舵の効きに大きな影響がでるという問題に遭遇しました。そこでスポイラーとフラップの間に固定ベーンを設けて直接隣接させないようにし、双方の効果を分離するという対策をとりました。またスポイラー下面にボーテックスジェネレータを設けて、スポイラーがわずかに作動したときでもスポイラーのリップ部に気流が流れベーンやフラップが揚力を発生しないようにする工夫も行われました。このようにして、T-2/F-1はスポイラーのみの動作でロール方向の操作を満足に行うことができるようになったのです。
T-2CCV主翼
 上の写真でもわかるように、スポイラーは片翼に内舷、外舷の2枚装備されています。また、主翼前縁部にはほとんど全体にわたって前縁フラップが装備されています。翼端にはミサイル搭載のためのランチャーを取り付けることができます。

 一方で、ジャギュアは前縁に25%翼舷で40°の後退角を持ち、アスペクト比は3.12。翼面積はやや大きい24.18㎡となっています。T-2/F-1と同様に高翼配置でスポイラーによってロール操作を行います。クリップドデルタ翼かつドッグトゥースと境界層フェンスを持つという点も共通していますが、内舷と外舷で後退角が異なりLERXもほとんどないことからT-2/F-1とは見た目の印象は異なります。また、ジャギュアの横転動作はスポイラーに加えて水平尾翼の差動で行われているそうです。
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 なお、ジャギュアも試作中に低速時の操縦安定性の問題があり、境界層フェンスはどうやらその時に追加されたようです。下反角はT-2/F-1よりも抑えめの3°です。また、ジャギュアの翼内は燃料タンクとなっており、T-2/F-1との大きな違いとなっています。
 ちなみに、ジャギュアの翼端は円く整形されており、ミサイルランチャーを取り付けることができません。その代わりに、なんと恐ろしいことに主翼上面にランチャーを取り付けることができるようになっています。操縦性やら整備性やら、いろんなところに悪影響がありそうに思えます。。。
JaguarGR3_41Sqn_RAF_1999(2)
 T-2/F-1とジャギュアの主翼は、高翼配置であることや面積、前縁後退角、アスペクト比に加えスポイレロン方式であることが似通っています。しかしながら、同じ攻撃機かつ同エンジンを搭載し同程度の速度性能を目指していたことから必然的に同じような特徴を備えたものと思われます。スポイラーまわりをはじめとして後縁部や内部の構造は大きく異なっており、私には模倣したようには到底見受けられません。

(5)尾部
 T-2/F-1の尾部は、おそらくF-4「ファントム」の影響を大きく受けているものと思われます。イナーシャ・カップリング防止のためにエンジンを重心近くに置き、その一方で方向安定性を高めるための長いテイルアームと、主翼後流を避けるために大きな下反角(15°)の付いた水平尾翼の構成はF-4と全く同一といえます。
F-1尾翼
F-4尾部
 実はジャギュアの尾部も、これと全く同じ構成となっています。実は、T-2/F-1とジャギュアが装備した「アドーア」エンジンは、他の超音速機用エンジンと比べても全長が短く、3m弱しかありません。ほかの超音速機用ジェットエンジンの全長は大体4~5mくらいあり、アドーアと同じくらいのエンジンといえばもともとビジネスジェット機用だったAIDC社の「F125」くらいではないでしょうか。そのため結果的にT-2/F-1もジャギュアもこのような尾部形状となったと思われます。
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 同じ高翼配置のためか、T-2/F-1とジャギュアとの尾部の処理のラインは非常に似通っています。両機とも安定性を増すためにベントラルフィンを装着しています。
 尾部に関して言えば、小さな主翼と全長の短いエンジンを装備したうえで、イナーシャカップリングを防ぐための最適な設計を追求した結果、T-2/F-1もジャギュアもF-4に強い影響を受けた構成を採用したのではないかと思います。

(6)エンジン
 T-2/F-1に搭載されたのは、すでに何回か触れていますが、ジャギュア用に開発されたロールスロイス・チュルボメカ社のターボファンエンジン「アドーア」を石川島播磨重工業でライセンス生産したものです。型番は「TF40-IHI-801A」といい、ミリタリー出力で2320kgf、アフターバーナー時に3310kgfの推力を発揮します。
TF-40
 先にも述べたように比較的小型のエンジンで、推力重量比的には同時代の他のエンジンに比べても特段抜きんでてはいませんが、燃費に優れるという大きなメリットを持ちます。
T-2エンジン
 ご覧のように、エンジンへのアクセスは容易で整備もしやすそうです。高等練習機としては申し分のないエンジンだったとは思いますが、戦闘機としてみると少し推力不足だといえそうです。F-1の最大離陸重量を13700kgとして、アフターバーナー時の推力重量比は「0.48」となります。
T-2ノズル
 ジャギュアもこのアドーアを2基搭載しましたが、当初はT-2/F-1と同系統のMk.102を装備していたものの、段階的な能力向上を経てMk.106では3820kgfに達しています。

(7)武装
 すでに書いたように、T-2前期型には武装およびレーダーはありません。T-2後期型から20mmバルカン砲およびJ/AWG-11レーダーが搭載されます。ハードポイントはそれぞれの主翼の翼端に1か所と内舷・外舷に1か所、そして胴体下に1か所の計7か所存在し、代表的な外部搭載兵装としては、対空兵器としてAIM-9サイドワインダーを翼端に2発、対地兵装としてロケット弾ポッドを翼下4基もしくは500lb/750lb爆弾を翼下・胴体下に5発装備することができます。また、増槽は220ガロン(833L)のものを最大3本搭載できます。
 F-1はハードポイントの数はT-2と変わりませんが兵装搭載量が増加しており、サイドワインダーは翼端に加え外舷下にも搭載可能となり最大4発を、500lb爆弾はGCS-1付きならば最大10発を、付いていないならば最大12発を搭載可能となっています。F-1の最大の特徴である80式空対艦誘導弾(ASM-1)は内舷ハードポイントに合計2発を搭載することができます。なお、レーダー誘導対空ミサイルの搭載能力はありません。
ASM-1
 ジャギュアは対地攻撃能力を重視しているため、対空ミサイルは自衛用の赤外線誘導のものに限定されますが、対地兵装については多彩です。例えばフランス空軍型に関しては、通常の爆弾やロケット弾に加えて、レーザー目標指示ポッドと組み合わせたレーザー誘導爆弾や「AS30」空対地ミサイル、「マーテル」対レーダーミサイル、果ては戦術核爆弾までを搭載することができます。
 また、インド向けの8機は機首にアガベレーダーを搭載して「シー・イーグル」対艦ミサイルが搭載可能になっており、F-1と近い存在といえます。

7.まとめ
 さて、ここまで長々と書いてきましたが、そろそろまとめに入ろうと思います。T-2/F-1はジャギュアに2~3年ほど遅れて開発された機体ですが、そのどちらも高等練習機兼攻撃機として開発されました。(結果的にジャギュアは攻撃機としての性格が強くなりすぎ練習機としては別に機体が開発されましたが)
 同じエンジンを搭載し、同程度の速度性能、同様のミッションを想定していたため、結果的には高翼配置、高翼面荷重のよく似た外観の航空機が誕生しました。しかしながら、私にはどうにもたまに噂されるような「模倣」だとはあまり思えません。似たような目的を持つユーゴスラビア、ルーマニアのJ-22/IAR.93でも中国のJH-7も同じような機体形状ですし、最適な設計を追求した結果同じような外観になってしまったという、ある種の「収斂進化」の結果なのではないでしょうか。もちろん、ジャギュアの開発状況を見ながら、ある種のベンチマークとして開発を進めていった可能性はありますが、設計内容に影響を与えるというよりは、「T-2の設計方針は間違っていなかったのだ」という安心を与える材料になっていた程度ではないでしょうか。その証拠に、似ているのはパッと見の外観だけで、細部を見ていくと全く異なっていることが分かります。(ただ、尾部のラインは想像以上に似ています)
 そのうえで、どちらかというとF-1は低空侵攻だけでなくある程度の対空戦闘能力も考慮された高速向きの機体で、いっぽうジャギュアは亜音速での長距離低空侵攻を主とした機体といえそうです。
T-2コクピット
 T-2/F-1は日本が初めて開発した超音速機でした。視界の問題とかエンジンパワーの問題とか、改良すべきであった点を挙げようと思えばいくつも挙げられますが、ともかくとして我が国の航空技術の発展に寄与した部分は大きいのではないでしょうか。私が偉そうに言うのは変ですが、少なくとも高等練習機兼軽攻撃機としては十分合格点を与えられるべき航空機だと思います。大切なのはこの経験を次へとつなげることかと思います。一国民として、次期戦闘機にも期待したいと思います。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。初めての試みとして戦後機を紹介してみました。皆さんのご意見・ご感想をぜひお聞かせください。

8.参考文献
・T-2/F-1
「超音速高等練習機(XT-2)の開発」『日本航空宇宙学会誌』第26巻第294号(1978)
『自衛隊の名機シリーズ④ 航空自衛隊T-2/F-1』イカロス出版(2004)
『世界の傑作機No.116 三菱T-2』文林堂(2006)
『世界の傑作機No.117 三菱F-1』文林堂(2006)
・ジャギュア
『航空ジャーナル1988年1月号』航空ジャーナル社(1988)
『週刊エアクラフト No.65』同朋舎出版(1990)
『月刊エアコマンド1993年9月号』同朋舎出版(1993)
Andy Evans "Warplane Classic No.1 SEPECAT Jaguar" Guideline Publications(2006)

※ジャギュアの写真はwikipediaから著作権フリーのものを拝借して使用していますが、問題があるようでしたらお知らせください。そのほかの写真は全て私が撮影したものです。

はじめに
 みなさま、ご無沙汰しております。いかがお過ごしでしょうか。私は新たな資料が全然手に入らず、リサーチが全く進んでおりません。
 ということで今回の記事は、資料が手に入らないなかで最近いろいろと試してみて遊んでいることを紹介したいと思います。

最高速度の推算
 このブログといえば二次大戦中の航空機の性能を追い求めています。そして性能の代表的なものが最高速度だと言えます。実測値の資料がなかなか無いならば、計算で推測してしまうのが早いのですが、実際問題として、最高速度の推算にはどのようなデータが必要なのでしょうか?現状手に入る資料のみで推算できるのでしょうか?
 ブログを始めたころは航空力学のド素人だった私ですが、独学で少しずつ勉強したので良かったらちょっとだけ聞いてください。(間違っていたら遠慮なく教えてください。)

最高速度の計算式
 この記事の趣旨ではないので一切の説明は省きますが、飛行機の最高(最小)速度は必要馬力曲線と利用馬力曲線の接点となります。

必要馬力(Pr)の計算式は、
Pr=ρ/150*CdSv^3
で表すことができますが、これを有害抗力と誘導抗力とに分けると
Pr=(CdpminS/150)ρv^3+(2/75πe)(W/b)^2(1/ρv)
と表されます。

いっぽう利用馬力(Pa)は、
Pa=Pη
となります。

すなわち、Pr=Paとなったところが最高(最小)速度となるのです。
PaPr
なお、
Cd:抗力係数
Cdpmin:最小有害抗力係数
P:軸馬力(ps)
S:翼面積(m^2)
W:重量(kg)
b:翼幅(m)
e:飛行機効率
v:速度(m/s)
η:プロペラ効率
ρ:空気密度(kg-s^2/m^4)
ですから、最高速度を求めるにはこれらのデータが必要となります。

すなわち、具体的には
①機体の寸法
②空気密度表
③エンジンの高度別の馬力データ
④風洞実験成績データ
⑤プロペラの実験データ
が必要となってきます。

①と②は簡単に利用できます。③はまだ手に入るほうですが、④や⑤は入手するのは略不可能と思ってよいかと思います。
というわけで、性能の推算は不可能なようです、、、と終わってしまうのはさみしいですから、なんとかできることはないでしょうか。

性能推算と実測値の比較
実は、奥宮・堀越の『零戦』には、一部の機体のCd値と最高速度時のプロペラ効率などが載っています。たとえばキ46-Iの最高速度は292kt@4070mとし、馬力は920×2馬力。そのときのCdは0.0232、プロペラ効率は0.753としています。
これを利用しない手はありません。また、幸いにしてキ46-Iの高度別の最高速度データも残されていますから、各高度の最高速度を計算し、実測値との比較を行ってみましょう。

まず、各高度別の馬力性能が必要となります。残念ながらハ26-Iの馬力グラフを私は見たことがありませんが、幸い同系統の瑞星12/13型の取扱参考書内にグラフがありますので、これを手直しして利用します。詳しくは省略しますが、手直しした結果、ハ26-Iの高度4100mでの馬力を914馬力とします。さらに、各高度での馬力も求めておきます。

続いて、Cdpminを求めます。これは最高速度時のCdから誘導抵抗Cdiを引くことによって求めます。
Cdi=Cl^2/πAe
(Cl:揚力係数、A:アスペクト比)
ですから、飛行機効率を適当にe=0.85として計算し、
Cdpmin=0.0217を得ました。

プロペラ効率は馬力を920馬力から914馬力に変えたので、再計算してη=0.755とします。
本来であればプロペラ効率ηは飛行速度の変化に応じて変わりますが、最高速度時には極端に大きくは変わらないはずので今回は全高度におけるプロペラ効率はη=0.755で統一します。

また、重量はW=4820kg、翼面積S=32.0m^2、翼幅b=14.7mとします。

さて、ここまでデータをそろえたところで1000mごとの最高速度を上記の必要馬力と利用馬力の式に代入して計算し、実測値と比較をしてみると、以下のグラフのようになりました。
Ki46I
 黒の実線が計算値を表し、赤の点線が実測値を表します。いかがでしょう。かなりいい線いっているのではないでしょうか。
 というわけで、文中で5つ挙げた必要なデータのうち、④と⑤についての詳細なデータが分からなくとも、最悪最高速度その時の高度、そして最高速度時のCd値もしくはCdpmin値が分かれば、なんとなく計算することはできそうなことがわかりました。


 この調子で、同様に『零戦』内に記載のあるA6M3/A6M5のCdmin=0.0204を用いて実測値との比較を行ってみます。
A6M3,M5
 キ46のときと同様に、黒の実線が計算値を表し、赤の点線が実測値を表します。最高速度から離れるにつれ、どうしてもズレが大きくなってしまってはいますが、極端な乖離はないかと思います。


 ところが、続けてこのCdmin=0.0204を使ってA6M2の最高速度を計算してみたところ、以下のような結果になりました。
A6M2
 全開高度以下の性能はピッタリだったのですが、それ以上の高度でのズレが許容できないほど大きくなってしまいました。
 この原因として考えられるのは、全開高度以上でのプロペラ効率が著しく低下しているか、もしくは全開高度以上でのエンジン軸馬力が実際は性能表よりも低下しているかのどちらかだと思われます。が、その答えを知る術は残念ながら今のところありません。

最高速度計算まとめ
 といった感じで、詳しいデータが揃わなくても、ある程度のところまで最高速度の計算はできることはわかりました。しかしながら、A6M2の例をみればわかるように、実測値と上手く合わないこともあります。その原因を考えるのも楽しいのですが、現状計算パラメータをうまく修正する方法は分かりません。
 また、今回はたまたま『零戦』内にCd値の記載があったからよかったものの、三菱以外の機体の風洞試験データがどこまで残っているのかも未知数です。最近はコンピュータ・シミュレーションで大戦中の機体のCd値を求めることもできるのでしょうか?もしそうであればかなり可能性は広がりそうな感じがします。
 加えて、大戦中のプロペラのデータというものが一体どの程度残っているのかということについても気になっています。直径やピッチ角は取説に書いてあることが多いのですが、翼型は?幅は?厚さは?といったところはほとんど知られていないのではないかと思います。ひとつ知れば100が分からなくなるといった感じで、奥の深さを思い知らされます。。。

 というわけで今回の記事は「性能データが揃わない最近の自分が試していること」でした。特に中身のある話ではなかったかもしれませんが、最後までお読みいただきましてありがとうございました。

『十五試双発陸上爆撃機実験(第四回報告)』空技廠・横空 昭和19年12月5日 より

・十五試双発陸上爆撃機(空技廠第3号機)

重量
 正規(normal) 9900kg
飛行性能
 最高速度
  5000m 287.5kt(532km/h)
  5900m 300.0kt(556km/h)
 上昇時間
  5000mまで 8分13秒


・試製銀河(中島第187号機)

主要寸法
 全長(length) 15.000m
 全幅(span) 20.000m
 全高(height) 5.270m(水平)
                4.300m(3点)

重量
 自重(empty) 7261kg
 正規(normal) 10500kg
 満載偵察(overload) 12242kg
 超過荷重(max. overload) 13372kg

発動機
 名称 誉11型(Homare 11)×2
 出力(output)
  離昇(take-off):1820PS@0m 2900RPM +400mmHg
  公称(rated):1650PS@2000m 2900RPM +250mmHg
        1440PS@5700m 2900RPM +250mmHg

プロペラ
 直径(diameter) 3.5m
 ピッチ変更角(pitch angle) 27°~51°

飛行性能
 速度性能(speed performance)
高度      最高速度       回転数   吸気圧力
(Alt.)     (Max. speed)      (RPM)    (mmHg)
      0m   237.0kt(439km/h)    2900    +250
1000m   250.0kt(463km/h)    2900    +250
2000m   262.5kt(486km/h)    2900    +250
2660m   271.0kt(502km/h)    2900    +250
3000m   271.0kt(502km/h)    2900    +211
4000m   270.0kt(500km/h)    2900    +250
5000m   283.0kt(524km/h)    2900    +250
5720m   292.0kt(541km/h)    2900    +250
6000m   289.5kt(536km/h)    2900    +215
7000m   278.0kt(515km/h)    2900    +97
8000m   264.0kt(489km/h)    2900    -15
9000m   246.5kt(457km/h)    2900    -118

 ※戦闘馬力試験成績
高度      最高速度       回転数   吸気圧力
(Alt.)     (Max. speed)      (RPM)    (mmHg)
1520m   250.4kt(464km/h)    2900    +250
1520m   267.1kt(495km/h)    2900    +400

 上昇性能(climbing speed)
高度    上昇時間    回転数   吸気圧力
(Alt.)     (clim. time)     (RPM)    (mmHg)
1000m   1'41"    2900    +250
2000m   3'25"    2900    +250
3000m   5'14"    2900    +148
4000m   7'17"    2900    +250
5000m   9'23"    2900    +250
6000m   11'38"          2900    +152
7000m   14'29"       2900    +42
8000m   18'23"       2900    -59
9960m   39'18" (service ceiling)


ソース(source)   『十五試双発陸上爆撃機実験(第四回報告)』航空図書館蔵
          "Examination report on 15-shi twin-engined land bomber"
          (Aeronautic Library)

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解説とコメント
 今回紹介した資料は空技廠による試験成績報告書で、原本は東京新橋の航空図書館に所蔵されています。この記事ではそのごく一部分を紹介しています。海軍の航空機は全てこのような性能試験報告書が作成されているはずなのですが、残念ながら銀河のほかに現存しているのは私の知る限り零水偵2式水戦などごくわずかです。

 さて、この報告書は空技廠製の試作3号機と比較して生産型である中島製第187号機の性能を確認することが目的でしたが、重量増加に伴う性能低下はあるものの実用に差し支えなしとの結論を得ています。
 試作機と生産機の差異については報告書内で詳細には触れられてはいませんが、具体的には、
・全備重量が生産機の方が600kg重い
・試作機は(推力式)集合排出管、生産機は単排出管
・尾輪が試作機は格納式、生産機は固定式
などが挙げられます。加えて工作精度の低下もあったものと思われます。結果として、生産機は試作機と比較して8ノットの速度低下があったようです。

 この報告書で興味深いのは、戦闘馬力の試験も実施されていることです。+400mmHg時は+250mmHg時と比べて高度1520mで約17ノットの増速効果を得ています。
 以下のグラフでは、青い丸および実線で187号機の速度性能を示しています。一方で戦闘馬力実験時の+400mmHgを赤丸で、+250mmHgを水色の丸で示しましています。グラフを見てもらえばわかるように戦闘馬力時の速度はもうちょっと出せそうですので、私の推定性能を赤い点線で示しています。なお、2速時の試験はなされなかった模様です。
P1Y1#187
 ところでこのグラフを見ていて思うのが、2速時の全開高度以上の速度低下が1速時と比べて急なんですよね。四式戦でも同様の傾向が見られるので、誉発動機の特徴と言えるかと思います。(参考記事)

 今回は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。

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